【動画ニュース】旧小田急百貨店新宿店本館の解体現場特集 | 建設通信新聞Digital

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【動画ニュース】旧小田急百貨店新宿店本館の解体現場特集

 

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解体が進む百貨店(23年7月)

2022年10月の小田急百貨店新宿店本館

 世界一の乗降客数を誇る新宿駅。国内のみならず、世界中からたくさんの人が集まるこの場所で、これまでの東京・新宿駅を一変させる複数の大型再開発が計画されている。その先陣を切るのが、新宿駅西口地区開発計画、いわゆる旧小田急百貨店新宿店本館の再開発だ。解体が始まって約10カ月が経過した8月、小田急電鉄新宿プロジェクト推進部新宿工事事務所の宮田浩平所長の案内の下、新宿駅など数々の駅を研究している昭和女子大の田村圭介教授と共に、旧小田急百貨店新宿店本館の解体現場に入った。現場の最前線をリポートするとともに、モダニズム建築で知られる坂倉準三がデザインを手掛けた建物の裏側に迫る。 小田急百貨店新宿店の歴史は1962年までさかのぼる。現在のハルクで開業した後、66年に現在の場所に移って一部開店。67年に全面開業した。小田急電鉄が所有する新宿駅西口本屋ビルと、東京地下鉄が所有する新宿地下鉄ビルデイングの2棟の駅ビルで構成するが、ファサードはアルミパネルのカーテンウオールで統一されており、一見すると1棟の建物のように錯覚する。

 それもそのはず、建設当時、施主も設計者も別だったものの、西口本屋ビルの設計者である坂倉準三建築研究所が、新宿地下鉄ビルデイングの設計者である鉄道会館の同意を得て、それぞれの設計段階から新宿駅西口駅前広場に面する外観のデザインを完全統一したからだ。

田村教授(右)と宮田所長(中央)


 施主の理解はもとより、設計者同士の協力なくしてなし得なかったデザインの統一によって駅前のシンボルができあがった。このファサードは、百貨店のパブリシティーを考慮し、全体が巨大なウインドーディスプレーになるように考えられたという。

 2022年10月に始まった解体現場に入る前にまず向かったのは、小田急線新宿駅の1階ホーム。本屋ビルの再開発に伴い、この場所は鉄道を運行しながらリニューアルしていく。地下部を含め、鉄道の構造物は残したまま既存の柱を建て替えた上で、ホーム上層に新たな建物を整備する。宮田所長は整備のステップについて、「鉄道を利用するお客さまが雨でぬれないように、まずは仮設の屋根をつくった後、ホーム上層の既存建物を撤去して新しい建物を整備する」と説明してくれた。

 鉄道構造物は長く使うことを考慮して整備されており、今後も耐震補強などを行えば問題なく利用できるため、既存を生かすという。

1階ホームの四つ葉のクローバー型ガラス壁


 リニューアルでは、JRのホームに接する四つ葉のクローバー型ガラス壁のデザインを変更することで、JRのホームからロマンスカーが止まっている様子を見られるようにする。

 解体現場見学は、旧小田急百貨店本館1階の大階段があった場所からスタート。その横はかつてエレベーター乗り場があった場所で、解体を終えた上層の廃材を降ろし集める空間として利用している。この脇にある出入り口から外へと廃材を搬出。西口駅前広場に面し、歩行者が多いことから、「夜間、交通量が少なくなってから搬出している」(宮田所長)と事故防止に細心の注意を払っている。
 
 

 解体は、解体施工者である大成建設の独自技術「テコレップLightシステム」で行っている。軽量屋根フレームユニットで建物を覆い、完全閉鎖空間を構築することで、解体で生じる粉じんや騒音などの影響を90%以上抑えられる。片側には駅前広場、もう片側にはJRの線路があるという環境下で、最適な工法と言えるだろう。上から順に解体し、ワンフロアの解体が終わるたびに、最上階に設置した重さ約500tの仮設の屋根が下層に下がっていくシステムだ。

 この工法で利用する解体用タワークレーンは、既存建物の躯体を活用して設置。補強躯体の新設に加え、壁や柱、床の補強により、タワークレーンを支えている。

 解体工法の説明を受けながら、徐々に大階段側から離れていくと、かつてハイブランドショップが並んでいたインターナショナルブティックエリアに到着する。さらに進むと新宿地下鉄ビルデイング部に到達。この時点で、このビルは4階のスラブ当たりまで解体が終わっていた。

 屋上化した新宿地下鉄ビルデイングの仮設屋根に上がると、モード学園コクーンタワーや新宿西口ハルクなどが目の前に現れる。地上建物部の解体が終わる23年末ごろには、西口広場から線路を挟んで東口にあるルミネエスト新宿の看板が見えるような景色が広がる。

 新しい建物の地下躯体工事には長い工期が見込まれるため、しばらくは開けた眺望となりそうだ。

 見学では、竣工当時の坂倉建築の名残も見つかった。

 解体に際し、客用階段の壁の仕上げをはがすと、タイル張りの仕上げが出てきた。宮田所長は「以前のリニューアルの際に既存の仕上げをはがさず、その上に新しい仕上げをのせたようだ」と解説する。
 
 従業員用の階段を通った際に田村教授は「手すりが人研ぎ(人造石研ぎ出し)になっている」ことを発見。セメントに小さな石粒などを練り込んで固め、表面を研磨する仕上げで、“裏側”にも手を抜かない坂倉のこだわりが見て取れる。

 ファサードのアルミサッシも見られた。

 最後に見学したのが、「思い出の場所で、懐かしい」「よく来ていた」と田村教授、宮田所長が口をそろえる180mのオープンモール「モザイク通り」だ。今後建屋を撤去する予定で、隣接する新宿ミロードは建て替わる。

 見学後、田村教授は「(旧小田急百貨店新宿店本館の)竣工当時の『新建築』に、この建物の設計関係者が集まった対談が掲載されているが、果たして本当にこの建物でいいのかという疑義が唱えられている。見学してみると、天井の低さなど、時代を感じる建物だとつくづく感じた」と話す。続けて、「これから未来に向かってさらにワクワクするまちになることを期待している」とコメントした。

 宮田所長は解体工事に際して、「西口駅前広場にはたくさんの利用者がおり、解体している建物の真下にも鉄道を利用しているお客さまがいる。加えて、東側にはJRの電車が走っているという特殊なロケーションでの解体工事になる。周囲やお客さまへの影響ができるだけないように、安全にこだわりながら作業を進めていきたい」と意気込む。

 新たなビルの整備に向けては、「新宿が大きく変わっていく新宿グランドターミナル構想の一翼を担う一番初めの工事なので、関係者の皆さんと協力して進めていきたい」と前を向く。

 更新期を迎えた駅ビルの建て替えを契機として、線路上空デッキの新設や歩行者優先の駅前広場への再構築などを目指す構想で、これにより、周辺地域との交流や回遊性を向上させる。20年7月に開通した地下の東西自由通路に加え、線路上空への東西デッキ新設も計画され、35年度の概成を経て、46年度の完成を目指している。坂倉準三により設計された自動車中心の空間構成となっている西口駅前広場は、人中心の駅前広場に再編する。新宿駅西口地区開発計画(写真左)の横では、京王電鉄とJR東日本が2棟のビル整備を計画。40年代の全体完成を目指している。

新宿駅西口地区開発計画
▽事業主体=小田急電鉄、東京地下鉄、東急不動産(予定)
▽設計=日本設計・大成建設JV
▽規模=地下5階地上48階建て延べ約27万9000㎡。最高高さ約260m
▽用途=店舗、事務所、駅施設など
▽竣工=2029年度
▽建設地=東京都新宿区新宿3、西新宿1各地内

 

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