盛り上がる木造非住宅ーー都城市のマキタ運輸倉庫 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

隠れた木の力シリーズ

盛り上がる木造非住宅ーー都城市のマキタ運輸倉庫

県内有数企業採用で評判が評判呼ぶ

 宮崎県都城市で、倉庫など非住宅建築物を木造で建設する機運が高まっている。ツーバイフォー(2×4)パネルの加工組立を手掛けるビッグハウス(宮崎県高原町)の立箱尚登代表取締役がネイルプレートトラスと2×4の組み合わせで大空間を構築する考え方を地域に持ち込み、C&S(宮崎県都城市、河野茂代表取締役)が実績を積み上げた結果、県内有数の大企業であるマキタ運輸(宮崎県都城市、牧田信良代表取締役)が倉庫で採用し、さらに評判が評判を呼んで広がっている。

壁と屋根トラスが組み上がった2棟目の倉庫の屋内

道路開通が起爆剤に

瀬戸山取締役

東取締役

水元氏


■ミッシングリンク開通で盛り上がる
 宮崎県都城市がいま、元気だ。ミッシングリンクとなっている九州縦貫自動車道宮崎線・都城ICと鹿児島県の志布志港までを結ぶ「都城志布志道路」が2024年度中には供用する見込みで、東西南北の交通の要衝となる都城が一大物流拠点・後方支援拠点化すると期待されている。
 南九州から福岡、関西、関東にまで食品・野菜・食肉・乳製品を輸送しているマキタ運輸の瀬戸山浩取締役営業部長は「道路の完成を起爆剤として、都城が物流拠点としてクローズアップされ、需要も増えている」と地域の盛り上がりを表現する。
 ニーズの多様化にあわせ小口配送が増えている上、運輸業の『2024年問題』への対応も求められている。同社では、23年9月までに運転手が宿泊できる機能を備えた拠点を東京、大阪、福岡に整備。細分化した商品の輸送・作業の効率化も不可欠で、「エリアごとに倉庫を設けて一元管理することで時間管理が容易になる」(東良二取締役)と、倉庫需要が増加する背景を説明する。
■コストと工期が半分に驚き
 同社も、都城市内の拠点として、2年ほど前に新たな倉庫(工事名称=仮称(株)マキタ運輸荷捌き倉庫棟新築工事)を自社所有地に建設した。当初はS造で計画していたが、「20mスパンの無柱空間の倉庫を建築できると、設計会社のC&Sから聞いて、木造で検討を始めた」(管理営業の水元雅士氏)という。
 実際、物品がひっきりなしに出入りする延べ1224㎡の平屋建て常温倉庫の内部は無柱空間で、「1面を広く使えて使い勝手が良い」(東取締役)と倉庫として高い機能性も実現できた。
 そして何より、「コストパフォーマンスが良く、施工期間が短い点が非常に大きい」(水元氏)という点に驚きを隠せなかった。特に倉庫で使用頻度の高い軽量鉄骨がいま、「非常に価格が上がっている」(ビッグハウスの立箱代表取締役)という状態で、「S造に比べて、木造はコストが約半分ほど」(水元氏)と語る。
 もう一つ、大きなポイントが、施工期間の短さだ。コスト同様に、「工期もS造の約半分」(水元氏)で、「基礎が終わってから、すぐに壁などがどんどん立ち上がっていく」(瀬戸山取締役営業部長)とそのスピードに目を見張る。
 コストパフォーマンスで短工期な上に、ネイルプレートトラスと2×4の組み合わせで準耐火構造となることで、倉庫業法上、厳しい耐火・防火基準が定められている『営業倉庫』としての登録もクリアできる。準耐火にするために必要な断熱材も設置するため、「S造に比べて結露がない」(瀬戸山取締役営業部長)と結果的に室内環境も良くなる。準耐火であるが故に保険料も抑制できる。減価償却期間も17年と比較的短い。
■口コミで自然と広がる魅力
 これだけ施主にとって魅力的なポイントがあれば、うわさは口コミで自然と広まる。マキタ運輸は、現在、2棟目の木造倉庫 (工事名称=(株) マキタ運輸桜木倉庫新築工事)を建築中だ。「いまも30mスパンの木造非住宅物件の計画が宮崎市内で2件ある」とC&Sの河野代表取締役には引き合いの声が届いており、C&Sの設計案件の施工を複数件手掛けてきた都北産業の田中竜夫宮崎支店工務2課主任も「道路整備をきっかけに県内への企業立地が増え、おそらく木造倉庫などの需要も増えるのではないか」と期待を寄せる。

工事が進む都城志布志道路都城ICの隣接地に立地するマキタ運輸の本社

慧眼が地域の木造普及を拓く

立箱代表取締役

河野代表取締役


■木造非住宅の火付け役
 都城での木造非住宅建築の火付け役とも言える存在が、ビッグハウスの立箱代表取締役だ。11年前に会社を立ち上げ、2×4パネルの加工組立を手掛けてきたが、「海外のように、工場を木造のネイルプレートトラスでつくりたい」と思い立ち、6年前にオーストラリアに社員を派遣してトラスの組立などの研修を受けさせた。特に顧客からのニーズがあったわけではなく、「手掛けている会社や施工事例が少なかったので、いけるのではないかと思った」ときっかけを語るが、現在の都城の状況を見れば“慧眼”そのものである。
 ただ、勉強をしても日本に需要はなかった。実際のネイルプレートトラスの実績は、「4、5年前に施工した豚舎が最初だった」という。C&Sを設計者として複数件の実績を積んだ後、「S造の体育館の計画があったが、コストが高く、木造で提案した」(河野代表取締役)ことが採用された。その体育館をマキタ運輸に紹介したことが、今回の倉庫の施工につながった。
 C&Sの河野代表取締役は、「S造の場合、杭が必要になり、部材も大きくなる。それに対して木材は軽く、ベタ基礎で良い。それが一番のメリット」と、コスト・工期の短さの秘密を解説する。トラスに使用する2×4工法用製材(ディメンションランバー)はJAS規格で規定されており、「JAS構造材を使用する建築物に対して補助金がでるようになったことも大きなポイント」と明かす。ネイルプレートトラスであれば、「構造計算のソフトも日本のソフトで計算できる。建築確認の構造審査を省略できる『4号特例』の適用対象が、延べ500㎡超から300㎡超に引き下げられるが、ネイルプレートトラスであれば問題ない」と、構造計算上のハードルも低い。
■生産性向上へ機械化・ロボ化
 立箱代表取締役がオーストラリアに社員を派遣してから10年弱で、都城で木造非住宅の建築の機運は盛り上がり始めている。軽量鉄骨の値上がりでコスト優位性がさらに高まったことで、「木造で倉庫などを建設できることを顧客や設計者が知り、工期の短さや室内環境の良さも含め、積極的に周囲に紹介してもらえている」と話す。
 現在は、木造トラスの売り上げが全体の3割を占めるほどに成長しており、「来年、再来年には6、7割にまで増えるのではないか」と見込む。木造工場のさらなる知名度向上に向け、「高速道路の近くなどよく見える場所に、既に実績のある20-30mスパンのトラスを組み立てて、PRしてみたい」とも語る。
 今後は、生産性向上に向け「施工状況などを社員に“見える化”したい。製造現場でも、機械化、ロボット化を進め、特に重量物を人が持たない体制をつくりたい」と、前進の歩みを止めるつもりはない。

建築概要
▽工事名称=仮称(株)マキタ運輸荷捌き倉庫棟
新築工事
▽建築主=マキタ運輸
▽設計者=C&S
▽施工者=都北産業
▽木材供給会社=ビッグハウス
▽規模=倉庫棟・木造(枠組壁工法)平屋建て、荷捌き場棟S造平屋建て延べ1224㎡
▽用途=倉庫業を営む倉庫
▽工期=2022年4月-22年7月
▽建設地=宮崎県都城市都北町4896他
▽工事名称=(株)マキタ運輸桜木倉庫新築工事
▽建築主=マキタ運輸
▽設計者=C&S
▽施工者=都北産業
▽木材供給会社=ビッグハウス
▽規模=倉庫棟・木造(枠組壁工法平屋建て、荷捌き場・S造平屋建て、事務所棟・木造(軸組み工法)平屋建て、延べ974㎡
▽用途=倉庫業を営む倉庫
▽工期=2024年1月-24年4月
▽建設地=宮崎県都城市山高城町桜木610-3

みるみるうちに壁とトラス屋根が組み上がった施工中の2棟目の倉庫


1棟目の倉庫のトラスの架設状況


トラックが頻繁に出入りする1棟目の木造倉庫

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カナダ林産業審議会(COFI)は、ツーバイフォー工法やネイルプレートトラス、それらに使用されるSPF材など、木造建築に関する普及・啓蒙活動を行っているカナダの非営利団体です。
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カナダ木材製品全般の普及・促進