◇官民双方のさらなる努力が不可欠
A 建設キャリアアップシステム(CCUS)の本格運用が開始されてから5年が過ぎた。取り組み状況はどうだろう。
B 建設業振興基金によると、3月末時点の登録者数は技能者が140万4843人、事業者は25万8896社で、累計の就業履歴は1億2857万6508回となっている。
A 建設企業の積極的な取り組みが目立つね。発注機関側の対応はどうかな。
B 工事成績と総合評価方式、入札参加資格での加点や、費用補助などの取り組みを一つ以上実施している地方自治体は44都道府県で、政令市は全20市が措置した。人口10万人以上の中核市に加え、村など小規模自治体でも導入が広がりつつある。
C 未実施の県はシステム運用に伴うコスト増大を懸念する地元企業の意見を挙げている。ただ、4月1日時点でインセンティブ(動機付け)がない3県のうち、山形県と富山県は費用補助を始める予定だ。
A 建退共電子申請との連動や安全書類出力機能の拡張、iPhoneのカードリーダー化などシステム自体の機能改善も進むと聞く。今後の課題は。
B 登録率が低い地域や2次以下の下請け企業、設備や住宅関係などの技能者・事業者の登録と現場利用の推進に加えて、5年の有効期限を迎える初期登録者の更新も着実に進められるようにしてかなければならない。
C 担い手の処遇改善に向けて建設業界共通の制度インフラとして期待されるCCUSの定着には官民双方のさらなる努力が不可欠だという大前提は5年たっても変わっていない。CCUSモデル活用工事の深化や発注者の支援など、市区町村を含めた公共発注者にさらに働き掛けていく必要があるね。
◇都心部への一極集中が鮮明に
A 本紙調査で東京23区で2023年度に計画された延べ1万㎡超の大規模建築物の総延べ床面積などの状況を報じているが、工事費上昇などの影響は見られたのかな。
B 件数は前年度と同数の71件となったが、総延べは前年同期比11.2%減の310万9991㎡だった。結果として、1件当たりの平均延べ床面積は4万3802㎡となり、前年から5532㎡縮小した。
A やはりマインドが下がっているということなのか。
C そう結論付けるのは早計だ。延べ10万㎡超は7件で、前年度より1件増えた。エリアで見ると、前年度の9件から今年は17件へと倍増した港区をはじめ、港、中央、千代田の都心3区で延べ1万㎡以上の全案件の4割を占めた。つまり、工事費が上がっている中でも、収益性が確保できるエリアに投資が集中していることが分かる。
B 反対に杉並や世田谷、台東、豊島、目黒の5区では延べ1万㎡以上の案件がゼロだった。東京一極集中といわれてきたが、その中でもさらに都心部への集中が進行しているということだ。
A 24年度以降についてはどう見る。
C 今回、23区全体の件数は前年と同数であったということからプロジェクト自体の見直しは進んでいなかったと考えられるが、今後は違うだろう。デベロッパーに取材をすると、工事費の上昇などを背景に減少を見込んでいるといった声が聞こえている。
D 建設業側から見ると、24年度から時間外労働の罰則付き上限規制が適用開始となっている。影響は未知数だが、当面は供給側のマーケットの動きを見ながら、施工体制を総合的に勘案し、慎重に受注や進捗(しんちょく)管理に臨む企業が少なくないはずだ。