『建設業現場代理人に必要な21のスキル』(経済調査会 東京土木施工管理技師会 編集協力 2381円+税)
担い手確保の課題に直面する建設業界。若手現場代理人に必要な心構えや知識をまとめた書籍『建設業現場代理人に必要な21のスキル』の著者である鈴木正司坂田建設土木本部長は「団塊世代の卒業や公共投資の先細りで多くの技術者が現場を去り、基本的なスキルを継承しないまま世代交代が進んだ」と根本問題を指摘する。鈴木部長に人材育成のポイントを聞いた。
教育の重要性は、40年前に初めて赴任した高速道路の現場から感じていた。日中に測量、夜は土質試験に明け暮れた新人時代、教育といえば専門書を渡されるのみ。難しい専門書を解釈して仕事を覚えるのは大変だが「覚えてしまえばたいしたことはなかった」。ノウハウをテキストにまとめ、応援の社員や後輩の指導に活用すると「みな1カ月もすれば自分と同じ作業ができるようになった」という。現場の問題解決を実戦的に考え、教育方法を模索してきた。
16年の現場勤務の間に技術士資格を取得し、これを契機に技術課長として、現場のトラブル処理と設計変更を熟しながら、社内教育に力を入れた。
特に重視したのがメンタルケア。期待の若手が現場代理人になったとたんトラブルで挫折し、会社を去る姿を見てきた。現場代理人は発注者、協力会社、近隣などのトラブルに対処する必要がある。「優秀な社員に残ってもらうにはメンタルを強くすることがなにより必要」と痛感した。
例えば公共工事で設計変更すると、工事費は完了後に確定する。その間、下請けの発注額が変更額に納まるか、現場代理人の心にじわじわとプレッシャーがかかる。「監督員の裁量で設計変更できるのは工事費の20%まで。30%以上は別途工事になる。この仕組みを理解した上で、監督員が上司や納税者に説明できる理由や解決策を提示することが重要」とし、最良の解決策を導き出す技術の必要性を説く。
若手には技術を極めること、現場で利益を上げることの2つを求める。「現場の利益を上げるとモチベーションが高まる。それを支えるのが技術とメンタルの強さだ。それらがうまく回ると仕事が楽しくなる」とポイントを語る。
覚えるまでの時間をいかに省くか
ベテランと若手の潤滑油となる“30代”が抜けた建設業界の「技術継承」のすき間を埋めるため、建設関係団体の講師として活躍する鈴木正司坂田建設土木本部長がまとめたのが『建設業現場代理人に必要な21のスキル』だ。鈴木部長の人材育成の考え方はきわめて合理的。「技は見て盗め」と言われた新人時代から「覚える時間の短縮」に重点を置いた。本書のほか『建設業・担い手育成のための技術継承』『建設技術者のための現場必携手帳』も上梓。現場必携手帳は電子書籍と連動しモバイル端末でも閲覧できる。資格試験を想定した編集方針も好評だ。3冊が一人前の現場代理人への最短距離の道しるべとなる。