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東北地方整備局が2027年度の完成を目指して秋田県東成瀬村に建設を進める成瀬ダム。ダム高と堤頂長、堤堆積、総貯水量いずれも台形CSG(セメント、石、砂れき混合材)ダムで日本一の規模となる。このスケールメリットを生かし、受発注者が最先端の技術を投入することで“現場の工場化”という未来の建設産業の姿を具現化した。
2018年9月に着手した堤体打設工事を担当する鹿島・前田建設・竹中土木JVは、鹿島が開発した建設機械の自動化システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」を導入した。ダンプトラックとブルドーザー、振動ローラーの3機種14台を自動化するなど、CSGの製造から打設に至る全ての作業の完全自動化に成功するとともに、高速・大容量施工を実現した。
23年5月の月間打設量28万1000m3は1960年に黒部ダムが記録した国内のコンクリート系ダム工事の月間打設量を倍近く更新した。これらは鹿島の西湘実験フィールド(神奈川県小田原市)から“ITパイロット”が遠隔管制しており、苦渋作業や安全性、省人化など建設業が抱える課題解決をIT分野との技術融合で先導している。
一方、大成建設・佐藤工業・岩田地崎建設JVが施工する原石山採取工事ではAI(人工知能)を使った画像解析によるCSG粒度の連続監視解析や、クローラドリル穿孔時エネルギー評価法の岩級判定活用などにより、廃棄岩量の把握と効率的な採取でコストを大幅に縮減した。さらに大成建設が開発した55tクラスの自動運転リジッドダンプ「T―iROBO Rigid Dump」を投入し、バックホウとの協調運転で骨材運搬の自動化を果たした。
発注者の成瀬ダム工事事務所は約4600本延長約15万2000mにもなる基礎処理のボーリング検尺方法に、立会検査と遠隔臨場に加えて、撮影した動画を空き時間に確認する「ビデオオンデマンド(VOD)」を試行。所要時間は従来に比べ監督職員が3分の1、請負者も2分の1と大幅な時間短縮効果を発揮している。また、さまざまな振興策などで地域にも貢献しており「地元自治体や受注者と連携しながら効率的・かつ広範囲に取り組みを展開したい」(安部剛東北地方整備局成瀬ダム工事事務所長)という。
II期工事2年目に当たる24年度は4月10日から工事を再開した。建設業の働き方改革を先導する立場として本体工事は土曜日と日曜日を休日とする完全週休2日に取り組む。「5月末時点の打設量は約90%で、11月中旬には99%まで達する見通し」(同)で、打設量の漸減に伴い有人ダンプトラックによるCSG運搬に切り替わるため24年度で自動化施工は見納めとなる。
工事が最盛期を迎えた23年度は前年度の1.5倍の見学者が訪れた。「先進的かつ国内最大級のビッグプロジェクトである成瀬ダムを建設業の魅力発信に最大限活用したい」(同)と若手を登用しながら広報にも注力する。
施工者からの技術提案で、品質や生産性の向上に加え、人が介在しないという安全性が高く評価された成瀬ダムの本体工事。「冬場は降雪で休工を強いられるため、短期に集中した施工が求められる。こうした取り組みが後発のダムの参考となり、技術開発を進展し、実装につなげるため、われわれが先頭を走っている。コスト管理を徹底し、早期完成に向けてまい進していく」(同)と引き続きマネジメントに力を注ぐ構えだ。