◇前方の音源だけで立体音響
オプソーディス1は、鹿島と英サウサンプトン大が共同開発した立体音響技術「OPSODIS」を搭載する。
同技術は、音楽ホールなどの音環境を設計段階でシミュレーションできる。これを搭載することで、視聴者の前方に置いたスピーカーのみで視聴者から見た左右、上下、前後、遠近の位置や距離感も含めて音を表現し、立体音響を実現する。通常の立体音響では映画館やホームシアターのように、視聴者を囲むように複数のスピーカーを置く必要がある。
鹿島は同大教授の会社と合弁でOPSODIS LIMITEDを2004年に設立。マランツやシャープなどメーカーの音響機器へのライセンス提供も行ってきた。
◇CFとゼネコンの共通点
村松氏は、オプソーディスのための小型スピーカーを開発し「認知度を高めれば、もっと技術が普及するポテンシャルがある」と見込んだ。鹿島として初のスピーカー自社開発にこぎつけ、23年10月に試作機を完成。続くスピーカーの販売というBtoCビジネスも同社として初となる。当初はEC(電子商取引)などでの市販を目指す方針だったが、CFに変更した。
CFの場合、募集期間内にスピーカーの購入希望者が支援金を支払って支援者となり、その後で支援者に完成したスピーカーが届く。一種の受注生産で「ゼネコンの仕事と共通点があり、社内の理解を得やすかった」と語る。
◇ライト層からプロまで
各地での試聴会の反応は自信を深めるものだった。「商業施設の売り場に設けた特設試聴スペースでは素通りされがちだが、『3秒でわかる』と声をかけて聞いてもらうと、試聴者がすぐに違いを感じて5分以上も聞き入っていることがある」。東京・有楽町の東京国際フォーラムで6月に開催したオーディオ・ホームシアター展示会「OTOTEN2024」にも出展。来場者が試聴ブースに列をなした。
好感触を得た層は、普段スマートフォンやテレビの付属スピーカーでのみ音を聞いていた人から、70年以上も試聴会に赴く愛好家、映画監督や作曲家といったクリエーターと幅広い。支援の定価7万4800円(税込み)を知らずに体験した試聴者から、20万円や30万円ほどかかると思った、と驚かれたことも。
10月には、日本オーディオ協会が音を通じて文化創造や社会貢献をした個人・組織を顕彰する「音の匠」に、開発チームが選定された。
◇ゲーム、環境音などでも
音響機器の市場が日本より大きく、CFが先行して普及する西欧、米国などでも需要を探る。既に米国の名門大学から試作機を常設したいとの反応を得て貸し出している。
技術面では、レコーディングスタジオのエンジニアなどから試作機のフィードバックを集め、改良に努める。「既に膨大な作品が立体音響を使用している映画のほか、ゲーム分野などでも立体音響が広まりつつある。コンテンツを制作する側とともに盛り上げたい」と力を込める。
使用シーンについては、外形寸法382×80×130ミリで重量2・5キロと機体が小型であること、「特別な防音設備のない一般家庭の部屋や、さまざまなスピーカーが鳴っている家電量販店売り場でも性能を実感できる」ことが幅を広げる。実際に一部ホテルが客室への設置に関心を示すほか、病院などで環境音を再生する用途も視野に入れる。
(むらまつ・しげのり)鹿島技術研究所立体音響プロジェクトチーム所属、OPSODIS LIMITED事業推進統括部長。明治大学混声合唱団指揮者やオペラ歌手(バス、バリトン)として活動する面も。岐阜県出身。
オプソーディス1のCFページはこちら(https://greenfunding.jp/lab/projects/8380)