【記者座談会】PFI継続で住民投票/大成建設が東洋建設にTOB | 建設通信新聞Digital

8月23日 土曜日

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【記者座談会】PFI継続で住民投票/大成建設が東洋建設にTOB

◇事業展開には住民の合意形成が不可欠

PFI事業での整備・運営が計画されている多目的屋内施設の外観 (提供:豊橋市)


A 行政の財政が厳しさを増す中で、負担を軽減できる民間活力導入への期待は大きい。ただ、愛知県豊橋市ではPFI事業としてアリーナ新設などに取り組む「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続を巡って賛否が二転三転したようだね。

B 2024年9月にスターツコーポレーションなどが結成した豊橋ネクストパークと契約したものの、11月の市長選で同事業の中止を公約に掲げて初当選した長坂尚登市長が契約解除の申し入れを通知していた。

C それでも市議会やスポーツ団体などから事業継続を求める声は根強く、7月の参院選に合わせて継続賛否を問う住民投票が行われた。結果は、賛成が反対の得票数を2万5000票ほど上回った。市は契約解除の申し入れを取り下げ、事業再開に向け事業者と協議しているそうだ。

A 住民投票では継続賛成が反対を上回ったのに、事業の中止を公約にした市長が当選したのはどうしてだろう。

B 市長選では、事業推進派の候補が2人いたために票が割れた可能性はある。だが、市や事業推進派議員による事業説明の不十分さも理由の一つではないだろうか。巨額の費用が投じられる大規模事業について、詳細を知らない市民が不安に思うのは当然だ。

C 反対派との議論も足りなかったのではないか。これまで反対派は市民団体を通じて建設地の課題などを指摘したが、市や市議会は計画ありきの印象を受ける対応をしてきた。市長選の結果は、そんな対応への不信感が反映されたとも考えられるよ。

A 民間活力を導入するとはいえ、行政が担う責任が軽減するわけではない。事業の意義やメリット、将来にわたってのリスク対応などを示し、市民の合意形成に努める必要があるはずだ。

◇活発化するM&A 建設企業の価値問われる

A ところで大成建設による東洋建設への株式公開買い付け(TOB)が12日から始まった。狙いや背景などはどうか。

D 大成建設は23年に佐藤秀、ピーエス三菱(現ピーエス・コンストラクション)を相次いで子会社化した。今回もそのM&A(企業の合併・買収)戦略の一環だ。マリコンの一角である東洋建設を買収し、洋上風力事業で道を開きたいのだろう。他のスーパーゼネコン各社はSEP(自己昇降式作業台)船を保有し、事業者や施工者として実績を積みつつある。大成建設としても浮体式の技術開発に乗り出しており、具体化を図りたい意図が見える。

A 今回の買収劇の仲介役は東洋建設の筆頭株主である資産運用会社YFOが担った。近年の建設業界の主要なM&A案件はだいたいアクティビスト(物言う株主)による介入が引き金となっているね。

E YFOの山内万丈代表は「われわれはアクティビストだとは思っていない。(投資の)期間的にも手法的にも他ファンドとは一線を画す形で自由にやっている」と説明し、自身が傘下に置いて以降の企業価値向上の成果を訴えた。

F 一線を画すかどうかはそれぞれが判断することだが、建設会社とそこで働く人たちは金融商品ではないということは言っておきたい。営利企業である以上、出資者に対して利益を配分するのはもちろんだが、インフラを担う建設業の価値はそれだけでない。

G そのとおりだ。今夏も列島を豪雨が襲い、土砂崩れで道路が寸断されたが、多くが早期に復旧した。道路は勝手に復旧しない。自身を二次災害の危険にさらしながら、それを担った誰かがいるということだ。経済誌などは業界再編と安易にあおるが、まさに国の生命線を握る役割を果たしていることを忘れてはならない。

 

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