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東京都港区のブラジル大使館で8月20日、建築家の南條洋雄氏と小堀哲夫氏によるトークイベントが開かれた。「ボッサ・ノーヴァな建築考」をテーマに、ブラジルのまちと建築の魅力を語り合った。
南條氏はブラジルで設計活動をしていた経験から、長年日本とブラジルの建築界をつないできた。日本の建築家をブラジルに案内することも多く、小堀氏も案内を受けた一人だ。
小堀氏は、ブラジルの首都・ブラジリア(計画都市)に降り立った日のことを回想し、「一人の建築家がまるで神の視点を持つかのように都市を生み出していったことに驚きを持ったと同時に、人間には『何もない世界を自分の思い描いたもので埋め尽くしたい』という気持ちがあるものなのだと感じた。感動と恐怖の感覚があった。人間の完全なるコントロールでユートピア的な都市を目指すということができるのだということと、そのようなことをしていいのだろうかという両方の感情が揺れ動いた。この後各地を回ると、ますますその謎は深まっていった」という。
ブラジル最初の首都・サルバドールを訪れた際は、「非常に面白い場所だった。起伏のあるまちで、色や音楽であふれていた」と話す。南條氏はこのまちについて、「何度も何度も修復していまに至る。僕は20代の時、この州の国際会議場のコンペで優勝し、しょっちゅう来ていた。思い入れのある場所だ」と感慨を込める。
小堀氏はブラジルの旅を通じ、「ブラジルには、自然光やランドスケープと一体となった建築がたくさんあった。建築と外部空間が非常に密接に絡み合っていて、外部、内部という考え方が解けていた」と感じた。自身も日頃そうしたことを意識しながら設計に向き合っているからこそ、「インスピレーションをたくさんもらった。ブラジルと日本では気候が異なるが、自然とともに建築を考えることの楽しさを改めて感じた」と振り返る。
最後に小堀氏は南條氏に、「ブラジルはまちによって雰囲気が異なる。それはどうしてなのか」と疑問を投げ掛けた。
それに対して南條氏は「ブラジルという国はありとあらゆる人種が一緒にいる。歴史を見ると、目的が何であったかはさておき、欧米諸国がこの地にたくさんやってきた。フランス系でできたまちがあれば、イタリア、ポルトガル、アメリカ系でできたまちもある。各々のまちに地域性があるのは、民族性と絡んでいる。建築にもそれが表れている」と解説し、対談を終えた。
今回の大使館でのトークイベントは、南條氏の著書『ボッサ・ノーヴァな建築考2 建築に生きる』(日刊建設通信新聞社発行)の刊行がきっかけとなり、開催が実現した。