6月に開かれたオートデスクの会合「BIM/CIMラウンドテーブル」では、入社時に徹底してBIM/CIMのOJT(職場内訓練)を展開する復建調査設計(広島市)と、ベテラン社員の技術伝承に向けてOFF-JT(職場外訓練)を重視する大日コンサルタント(岐阜市)の取り組みが紹介された。国土交通省がBIM/CIMの原則適用にかじを切り、BIM/CIMデータ活用が建設コンサルタント業務の差別化戦略としてクローズアップされている中で、人材育成や技術ノウハウの蓄積は、将来に向けた各社の共通課題でもある。参加者からも多くの意見が上がった。
5年前に社長直轄組織としてBIM/CIM推進室を立ち上げたNiX JAPAN(富山市)では若手を中心に延べ150人の技術者がオートデスク製品を軸とした3次元ツールの操作研修を取得済み。橋梁部門が先陣を切るように社内でのBIM/CIM活用が広がるものの、升方祐輔室長は「配属先によっては習得した操作スキルが生かせない現状をいかに打開していくかが課題になる」と語る。
片平新日本技研(東京都文京区)では、BIM/CIMの社内資格を創設したことで、CADオペレーターのモチベーションが変化し、対外的な打ち合わせの場でも積極的に参加する前向きな意識が広がっている。伊藤亜生取締役イノベーション・ラボラトリ長は「教える側より教わりたい側の数が多く、しかも教わりたい側のレベル差が大きいため、教える側が苦慮している。3次元教育の中に実践的な部分をどう入れ込むかも課題になる」と強調する。
新入社員にBIM/CIMを含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)教育を1カ月間実施する復建調査設計の取り組みを目の当たりに、ラウンドテーブル参加者からは「入社初年度には十分な時間を確保することが難しい」との声が上がる。建設コンサルタント各社では新入社員研修時に本業の設計教育を軸に研修プログラムを組むケースが多い。国土交通省のBIM/CIMの原則化が始まり、加えて生成AI(人工知能)の進歩も著しい中で、同社の天野政之BIM/CIM推進室長が「当社は最先端のデータ活用技術を駆使できる人材育成に注力している」と語るように、時代を見据えたナレッジ戦略の構築が重要なテーマになろうとしている。
参加者の中には、講演した大日コンサルタントのように、社を挙げてナレッジマネジメントの構築に力を注ぐ動きはあるものの、うまく機能していないケースが大半を占める。同社の飯田潤士取締役ICT設計部署長は「ナレッジの蓄積に向けた参加意識はなかなか広がらない。時間をかけて一歩ずつ進むことが大切だが、社員に共有意識が芽生えれば、ナレッジの浸透スピードが一気に広がる」とアドバイスする。
いであも、全社横断プロジェクトとしてペーパーレス化やコミュニケーションの拡充、技術ノウハウを未来につなげるナレッジマネジメントの方針を打ち出し、6年前から取り組んでいる。社会基盤本部CIMセンターの大江浩之技師が「リーダー役が先頭に立って取り組む流れで推進している」と説明するように、ナレッジ蓄積の推進役をしっかりと位置付けることも重要なポイントの一つになる。
ラウンドテーブルに参加した建設コンサルタントは11社16人。BIM/CIM原則化を背景に、BIM/CIMデータ活用の機会が大幅に拡大する中で、各社には対象業務以外でもBIM/CIMに取り組む流れが広がっている。蓄積したデータを社内に共有し、いかに業務に活用するか。デジタル時代が色濃くなる中で、人材育成と連動したナレッジ戦略がより強く求められている。