船場は、オートデスクと結んだ戦略的提携(MOU)で「CDE(共通データ環境)の構築」「協力パートナーとの連携」「教育プログラムの社外展開」という三つのテーマを重点領域に定めている。オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤にCDEを構築した上で、協力パートナーと密接にデータ連携するための業務プロセス改革に乗り出すとともに、展開してきた独自の教育プログラムを社外展開し、内装ディスプレー分野のBIM普及を後押しする。
情報共有の基盤となるACCは2023年から導入し、BIM導入案件の50%でプロジェクト関係者のワークシェアリングを支えている。これまでは設計担当それぞれが独自でBIM活用を推し進めていたため、「貴重なナレッジが社として蓄積できていなかった」とBIM CONNECT本部の大倉佑介戦略企画部長は説明する。先行して照明メーカーのコイズミ照明とは、実プロジェクトを通してACC上でBIMデータを共有しているように「共に空間をつくる協力パートナーと密接な連携を実現するためにも、ACCを基盤にしたCDEの構築が不可欠」と強調する。
多喜井豊執行役員BIM CONNECT本部長は「当社だけが取り組んでもBIMデータ活用の効果を最大限に発揮できない。協力会社も一緒に取り組み、業界全体で成長する流れをつくっていきたい」と付け加える。既に10社以上の建材メーカーとはBIM連携に向けた情報交換もスタートしている。独自に進めてきた教育コンテンツの社外展開も、内装ディスプレー業界のBIM活用促進に向けて「欠かせない重要なテーマになる」とMOUの柱の一つに位置付けた狙いを語る。
大倉氏は「当社は21年から独自の教育コンテンツで人材育成に取り組んできた。それが価値のある教育であるか、MOUを通して知るきっかけになる」と期待している。現在は年2回のBIM研修に加え、社内標準に位置付けるオートデスクのBIMソフト『Revit』やACCなどのeラーニングコンテンツも拡充している。新入社員や中途社員にBIM活用意識を植え付けるため、BIM推進者側の教育マニュアルも整備した。入社3カ月で推進役として活動するケースも出てきた。
BIM CONNECT本部は15人体制。社内のBIM活用が拡大するにつれ、役割も多様化してきた。現在は社内へのBIM活用支援と、社内外へのBIM活用推進を担う二つのチームに区分けしている。設計部門などからも人材を受け入れ、BIM推進を学んで各部門に戻す人材交流の展開を始めた。多喜井氏は「BIM活用に向けた部署間の壁を小田切社長が取り除いてくれたことが大きな推進力になっている」と明かす。
今年3月に船場の代表取締役に就任した小田切潤社長は、丸紅やアクセンチュア、オンワードなどでグローバルでの事業経営やM&A(企業の合併・買収)などに従事してきた。「設計から施工を経て竣工する内装工事のビジネスタームは他業種に比べて長く、その流れに働き方のリズムも合わせてしまっている。もっと高速でリアルタイムに経営判断する流れに切り替えたい」
既に同社はクラウドツール『Salesforce』などを導入し、KPI(重要業績評価指標)や顧客管理情報、BIM活用情報も可視化している。CDE構築に合わせ、ACCとIT基幹システムとのデータ連携を本格化させる計画だ。「そうなればBIMは、私が掲げる『スピードと集中』という経営方針を実現できる強力なツールになる」と確信している。