わが国で木造の特別養護老人ホームの地平を切り開いたのは、清流共生会が2006年に大分市に建設した総合ケアセンター「明治清流苑」だ。04年にツーバイフォー(2×4)木造建築の耐火構造の大臣認定を日本ツーバイフォー建築協会とカナダ林産業審議会が取得後、同程度の規模では国内初の事例だった。それから足かけ20年近く。2×4木造が入居者にもたらす効果を実体験として感じ取ってきた。そして24年7月、木造社会福祉施設のパイオニアである清流共生会が、新たに2×4木造で「デイサービスセンター川添清流苑」を建設。木材の優しさや大空間を存分に生かした運営を行っている。
「分かちあい共に生きる」体現///清流共生会会長 兒玉貞夫氏/清流共生会理事長 兒玉哲郎氏
--清流共生会の経営理念は
理事長 「『分かちあい共に生きる』を理念にしている。分かちあいは、サービスを提供する側とされる側という立場だけでなく、利用者同士、職員同士、地域同士、地域と施設、さまざまな関係性の中で分かちあいを理念としてサービス展開している」
--明治清流苑を06年に建設した経緯は
会長 「当時、北欧の福祉施設を見学する機会があり、かなり大型の木造施設を初めて見た。日本でもこうした建築ができないかと思った。その思いを吉高綜合設計の吉高久人代表取締役に話したところ、木造耐火構造を認める新しい方向性が出たと聞き、挑戦することになった」
--建設までは円滑に進んだか
会長 「わが国で第1号の木造耐火構造の特別養護老人ホームだったので、途中でとん挫しかかったこともあった。『もうやめよう』という話もした。そうした中でも、みんなの思いが『何とかやり遂げたい』と一致して、強い思いで完成できた」
◆木の優しさ存分に発揮
--木造空間の居心地は
会長 「現在も高齢者の特別養護老人ホームやデイサービス、小規模多機能型居宅介護、グループホームとして使っているが、木造の優しさといった良さが存分に発揮されていると思う。木造の本質的な居心地の良さが十分発揮されている」
--デイサービスセンター川添清流苑の建設経緯は
理事長 「本部は移設したものの、もともとここは法人設立の地であり、地域の福祉ニーズも非常に高かったことから、この地にサービスを残していくことにした」
--木造にした理由は
理事長 「地域の方々になじみやすく、使い勝手が良い施設と考えた時に、やはり独特の柔らかさがある木造を選択した。明治清流苑の実績もあり、良さを身をもって体験していたので、この地域の方々にもその良さを感じてもらいたいと思った。体感や歩いたときのかかとの負担の軽さが違う。例えばお年寄りが転倒しかかっときや転倒した時のダメージも違ってくるだろう」
--竣工から1年半ほど経つが感想は
理事長 「職員はもちろん、利用者の皆さんからも、非常に高評価をいただいている。地域の方が入りやすい、利用しやすいということが評価され、1日35人ほどの利用者がいて、非常に運営も安定している。これも居心地の良さが表れているからではないか。冷暖房の効き方も良く、季節ごとの快適さも時を重ねるほどに実感できるのではないか。認知症の方は、寒いと感じると、立ち上がって歩く、いわゆる徘徊(はいかい)をする。木造は、暖かいので、立ち上がる必要がなく、座っていることが多い」
◆大空間で目が届きやすく
--17mスパンの大空間が印象的で、運動器具を設置して運動していたと思えば、すぐに器具を移動して、大人数でのイベントを開催したりと空間を有効活用している
理事長 「完成当初は、利用者からまず、この空間の広さに驚きの声をいただいた。限られた人員で介護をする際に、利用者皆さんに目配りするのは本当に大変な作業になる。大空間にすることで、職員の動線やお年寄りの安全確保において、目が届きやすく、非常に効果がある」
--建設コストはどうだったか
理事長 「最初は、やはり軽量鉄骨やRCを検討した。その中で、木造は1割ほど安くなったと思う。福祉事業は、不確定要素が多く、事業の継続性を考えた時に、RC造やS造より木造の減価償却期間が短いことも非常に大きなメリットを感じた」
木造医療福祉建築を切り開く 吉高綜合設計代表取締役 吉高久人氏
吉高綜合設計の吉高久人氏は、2×4木造による医療福祉建築物設計のパイオニアだ。耐火木造の福祉施設建築の道を切り開いた明治清流苑をはじめとして、約20棟の耐火木造医療福祉施設を設計してきた。「足腰の負担が軽減される。気密性・断熱性が高く、ランニングコストの面で非常に有利になる。耐震性、耐火性も高い。イニシャルコストも、RC造より2割ほど、S造より1割ほど安くできる。減価償却期間もRC造の約半分で済み、大きなメリットになる」と、木造の総合力の高さを信じて取り組んできた。明治清流苑が完成して約20年。兒玉氏から「耐震性、耐火性も含めた全ての点で木造の優位性を感じられた」と声を掛けられ、今回のデイサービスセンター川添清流苑の設計も手掛けることになった。
「フレキシビリティーの高い、間仕切りがない大きな空間をつくりたい」という依頼があり、ネイルプレートトラスを使った17mスパンの大空間を実現した。施工に当たっては、トラスを搬入する動線や現場敷地が狭かったものの、「プラットフォームという床版を作り、そこでトラスを組み立てる方法を採用した」という。
木材は、カナダ産のSPF材を200m3、国産材の構造用合板を25m3使用した。「2×4材(ディメンションランバー)は北米のNLGA規格か、JAS規格で生産・管理されており、寸法や品質管理が確立されているので、無駄がなく、コストも抑えられる」と強調する。
丘の上という立地を生かし、「南北に風が抜ける構造にした」と利用環境にも十分配慮し、屋根をかまぼこ形にすることで「自然環境に合った柔らかいデザインにした」と意匠にも気を配った。
国内の地域建設会社には2×4木造の施工を敬遠する会社もあるものの、「施工した森田建設やフレーマーのウイングとは、過去に複数の案件で組んでおり、気心が知れてノウハウが蓄積し、『一を言えば十を知る』というチームができている」と自信を見せる。それでも施工時には勉強会を開催し、ポイントを伝えてきた。「2×4には不慣れな建築家も、少し勉強すれば、それほど難しくはない。建て方ができる建設会社もしっかり存在している。協力してチームを作って取り組めば、さらに普及していくのではないか」と見据える。
トラスで17mスパン実現 段取り八分で円滑施工 森田建設作業所長 猪尾悦訓氏
森田建設は、九州全域を中心に建築の元請け・サブコンを手掛けている。多くの木造施設を吉高綜合設計と組んで施工するなど、2×4木造の実績を積み上げてきた。森田建設の猪尾悦訓作業所長自身は、2×4木造の現場所長の経験はなかったものの、施工をサポートした経験はあった。施工に当たり、「2×4の耐火建築物の施工方法を事前に吉高綜合設計に聞いて、確認してからスタートした」という。搬入路や現場のスペースが限られているという点が施工に当たっての最大の課題だったが、「一番最初が勝負。組み立て方など施工計画をまず重点的に検討した」と、“段取り”に力を入れた。組み立てたネイルプレートトラスをそのままトラックで搬入できなかったため、「現場で組み立てるスペースの確保と組立・建て方を検討し、トラスを組むプラットフォームを最初に作り、基本的に作業が建物の中で完結する流れにした」という。トラスの組立や建て方を担当したウイングとも「事前に現場を見ながら状況を確認した」という。
「最初にしっかり計画さえすれば、施工は早い」。トラスを採用したことで工期短縮にもつながり、経験のあるS造建築と比べても「2×4の方がとても施工が早い」と感じている。
あくまでも自分自身は「与えられたものを工期内に予算内で施工するだけ」という姿勢で、「自分の知識として何でもできるようになりたい」と今回の2×4木造の“引き出し”が増えた経験を生かし、さらなる成長を目指していく。
建築概要
▽工事名称=デイサービスセンター川添清流苑新築工事
▽建築主=社会福祉法人清流共生会
▽設計=吉高綜合設計
▽施工=森田建設、フレーム=ウイング、トラス供給=プライムトラス
▽構造=木造枠組壁工法、耐火構造、屋根は木造トラス工法
▽規模=平屋建て1019㎡
▽構造用木材使用量=225m3(製材・集成材・トラス材〈SPF材〉200m3、構造用合板〈国産材〉25m3)
▽工期=2024年1月25日-24年7月29日
▽建設地=大分県大分市種具144番地
◆カナダ林産業審議会
www.cofi.or.jp
〒105-0001東京都港区虎ノ門3-8-27 巴町アネックス2号館9階 TEL:03-5401-0533
カナダ林産業審議会(COFI)は、ツーバイフォー工法や木質トラス構造、それらに使用されるSPF材など、木造建築に関する普及・啓蒙活動を行っているカナダの非営利団体です。





















