現場作業所が設計施工BIMのメリットをまず実感したのは設備設計だ。1階が店舗、2階以上が住宅の複合施設のため、2階天井の設備設計では配管などの難易度は高い。清水通所長は「BIMの3Dモデルで立体的に見ることで、施工のイメージや周囲との干渉を確かめることができた」と振り返る。またコンクリートの積算や一部の工程管理にも活用し、その効率の良さを実感したという。
BIM推進室の吉松公生課長は「社内でもBIMのメリットは広まってきている。今回の現場で設計施工BIMの普及に向け検討をしたい」と語る。清水所長は「品質管理をする上で最も重要なのは手戻りをなくすこと。最初は時間がかかるかもしれないが、慣れればさらに品質も高まるだろう」と見通している。
最先端技術を活用しながらも、そのものづくりの現場を支えるのは人間同士の信頼関係だ。八王子市という地域性は、都心の現場とは異なる苦労も少なくない。特に冬季の降雪は工程管理を悩ます大きな課題だ。しかし、ある大雪の降った日の現場に多くの職人が雪かきに集まってきてくれたことは「涙が出るほどうれしかった」と振り返る。
こうした作業員との信頼関係を支えるのは「自分一人では何もできない」という所長自身の強い思いだ。「現場の人間は家族と同じだ。お客さまと同じように大切にしなければならない」と強調し、現場で出会った「家族」とは、その現場が竣工してからも変わらない付き合いが続くよう意識している。
この信念は、現場の環境づくりにも通底する。駅から徒歩圏内であることに配慮したシャワー室の整備や、女性技術者・作業員専用の休憩室の完備など労働環境を重視するのもその一部だ。「現場は皆でつくるものだ。それぞれが100%の力を発揮してもらえば能率も上がり、事故も少なくなる」と指摘し、現場の働きやすい雰囲気づくりを大切にする。特に女性への環境整備は「やるべき時がきている」と実感している。
休日の確保も環境を整える重要な要素だ。現場では10人の職員が働くが、職員は完全4週6休を達成し、作業所についても4週6閉所の実現に向け動き出した。重視するのは「早く帰る意識付け」だ。月2回のノー残業デーを徹底することで、先々の工程管理や効率的な業務体制が構築できるという。
竣工までの期間が1年を切り、2月末時点では13階の鉄筋・型枠作業が急ピッチで進んでいる。日常的に車や人の往来が激しく、周辺環境への細心の注意が必要な困難な工事だが「基本的なことを一つずつやり、悪いものは悪いと妥協や放置をせずに仕事を進め無事に竣工を迎えたい」と力強く語った。