【三菱電機】ゼロエネルギーのその先へ 三菱電機の「ZEB+」 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【三菱電機】ゼロエネルギーのその先へ 三菱電機の「ZEB+」

 三菱電機は、総合電機メーカー初のZEBプランナーとして建物のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化を支援している。ZEBに必要な空調、換気、照明、給湯、昇降機の5設備に加え、BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)、太陽光発電などの創エネ設備を保有する総合電機メーカーの強みを生かし、業界トップクラスの省エネ性能を誇る個々の設備を組み合わせて設計、提案することでZEBの最適解を提供してきた。松下雅仁ビルシステム事業本部ビル事業部ビルシステム新事業企画部長(兼ZEB事業推進課長)に話を聞き、ゼロエネルギー化のその先に、働く環境の効率化などによりビルの高度化を目指す三菱電機の「ZEB+(ゼブプラス)」を展望する。

インタビュー 松下 雅仁氏

松下 雅仁氏/三菱電機ビルシステム事業本部/ビル事業部ビルシステム新事業/企画部長(兼ZEB事業推進課長)

--ZEB拡大の背景と導入メリットを教えてください

 COP21で採択されたパリ協定や政府の地球温暖化対策計画の策定、SDGs(持続可能な開発目標)やESG経営も追い風になり、実効性ある温暖化対策に注目が集まっています。その中で、建物の高断熱化や高効率化による省エネと太陽光発電などの創エネを組み合わせることで年間の1次エネルギー収支が“プラスマイナスゼロ(もしくは創エネ量が消費量を上回る)”になるZEBが注目されるようになりました。
 従来の日本の省エネは、夏でもエアコンの温度を28度に設定するなど“我慢を強いる省エネ”であり、言い方を変えると「投資せず回収だけを求める」省エネを一生懸命に行ってきました。ZEBの思想は根本的に逆です。まず建物を高断熱化し、魔法瓶のように内部を温度変化しにくい構造にした上で高効率な設備を導入するため、「快適性」と「省エネ」を同時に実現することができます。建物の高断熱化や高効率設備の導入により、イニシャルコストは若干増加しますが、ランニングコストの減少で回収できます。また、不動産価値の向上、BCP対策等のメリットもあります。政府は「2020年までに新築公共建築物、30年までに民間を含む新築建築物の平均でZEBを実現する」との政策目標を掲げており、各種補助金によりZEBの普及をけん引しています。

--三菱電機のZEBの特徴は

 建物をZEB化するには原則、最低50%以上のエネルギー削減が必要です。高断熱化と高効率な設備を組み合わせることで、40%程度までは比較的簡単に削減できますが、50%にまで減らそうとするとコストと性能のせめぎ合いになります。ZEBを複数のメーカーの製品で構成する場合、建物の部屋割りや構造を見直すたびに、各設備についても再計算する必要があるため設計事務所の負担が大きくなりますが、当社は省エネ率の計算対象となる空調、換気、照明、給湯、昇降機の5設備をすべて保有しているため、事前に各製品を担当している部署間で調整し、機器の特徴を踏まえた最適な組み合わせをお客さまや設計事務所に提案できるのが最大の特徴です。

ZEBワンストップソリューションの提供イメージ

--ZEBの4つのカテゴリーに企業はどのように取り組むべきでしょうか

 今年新設された「ZEB Oriented」は延べ1万㎡以上の建物に限定されるため、多くのお客さまは「『ZEB』」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」の3種類が対象になるでしょう。ZEB Readyには50%以上の省エネが課されるため、まずは50%の削減を目指すことになります。設備の省エネ化だけでは限界があるため、75%以上の削減が必要なNearly ZEB以上を目指すには創エネルギーの併用が必要です。太陽光発電パネルの設置は敷地や建物の形状に左右されますが、高断熱化しやすい新築であれば50%の省エネ達成は十分に可能です。

ZEBの定義
出典:平成30年度ZEBロードマップフォローアップ委員会まとめ

 当社は前記の5設備に加え、太陽光発電設備、BEMS、受電設備のほか、入退室管理システム、監視カメラなども提供しており、これらの製品・システムの連携により、さらに働く人の環境を快適にする「付加価値」を提供することを目指しています。たとえば、入退室管理で得た「人がどこにどれくらいいるか」という情報を活用し、空調・換気を自動コントロールすることで、省エネだけでなくWELLNESS(快適性)の向上につなげていく設備制御やサービスの開発にも取り組んでいきます。
 当社はゼロエネルギー化のその先も視野に入れ、これらの「付加価値」の提供によって、生産性向上などビルの高度化を目指す「ZEB+」を提案していきます。

ZEBの検討手順

--ZEBの推進体制や「ZEB関連技術実証棟」のポイントを教えてください

 当社は16年に事業企画の専門部署を立ち上げ、その後17年にはビルディングオートメーションシステム(BAS)のシステムエンジニアを中心にZEBのエンジニアリング部門を立ち上げました。照明や空調など個別の機器に関する知識は各製作所、設計に必要なエネルギー計算は研究所の協力を得て習得するなどして、ZEB事業にかかわる人材を育成しています。専門的な設計は東京のエンジニアリング部隊が対応しますが、お客さまへの提案は全国の支社・営業所のスタッフでも行えるよう各支社でも研修を行っています。
 初めて受注したのは白鷺電気工業本社ビル(熊本市)で、熊本地震で被災した建物の耐震化に合わせてZEB化を図り、Nearly ZEBを達成しました。17年の本プロジェクトを契機に当社のZEBの全国展開が始まり、今では30件程の実績があります。今後増加するであろう既存ビルのZEB化については「HOWAビル津中央」(津市)で“居ながら改修”によるZEB化を達成。また、難しいと思われがちな寒冷地のZEB化についてもサービス付き高齢者向け住宅「YONEKIプレミアム」(山形市)を手掛け、ZEB Readyを達成しました。
 また、ZEB関連の技術開発をさらに加速させるため、当社の情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)内に「ZEB関連技術実証棟」を建設しています。この施設は、省エネと建物上に設置した太陽光発電のみで103%のエネルギー削減を達成し、6000㎡規模の事務所ビルでは初めて『ZEB』認証を取得しました。
 実証棟で今後検証する技術には最先端の技術も含まれていますので、すぐに一般の「省エネビル」に適用できるものばかりではありませんが、少しでも早く効果を実証し、広く使っていただけるものにしたいと思います。これからもZEBプランナーとして、これまで培った知見をもとに施主や設計事務所、ゼネコンを支援し、優れた設備を供給することでZEBの普及に貢献していきます。

エネルギー削減率103%実現 BELS最高の5スター獲得

 三菱電機は、ZEB関連の技術開発をさらに加速させるため、「ZEB関連技術実証棟」の建設を神奈川県鎌倉市で進めている。6月に着工し、2020年9月の稼働を予定している。規模はS造4階建て延べ約6000㎡。建物全体の設計条件の見直し・最適化、設備機器・システムの高効率化、空調・照明・太陽光発電など各種ZEB向けソリューションの導入により、エネルギー削減率約103%を実現した。BELSの最高ランク、5スターに加え、6000㎡以上の中規模オフィスビルではじめて『ZEB』認証を取得した。
 完成後は▽ビルと街のエネルギー連携技術▽AI×省エネ技術▽設備直流駆動技術▽WELL認証▽BIM活用ZEBシミュレーション技術▽スマート移動技術--などを実証し、ゼロエネルギー化にとどまらず、未来の都市変化を先取りする「ZEB+」の実現を目指す。

トップクラスの技術を一般ビルに展開 - 代表事例 -

 
◆HOWAビル津中央 - ZEB Ready達成 快適な環境実現
 HOWAビル津中央は、既存ビルの“居ながら改修”でZEB Readyを実現した。事務所の既設テナントビルとして空調と照明がエネルギー消費量の約70%を占めていたが、東側の共用部と南側の立体駐車場が断熱エリアとなり、西側にまとまる空調対象エリアの負荷を低減。高効率な空調・照明の導入、空調制御の集中化、最終退館情報に基づく設備消し忘れ機能の導入、さらにBEMSを導入しエネルギー管理のPDCA活動を継続し、省エネルギーかつ快適なオフィス環境を実現した。
◆白鷺電気工業本社ビル - Nearly ZEB達成 震災復興の象徴
 熊本地震を機に着工した白鷺電気工業本社ビルは(1)災害に強い(耐震等級3相当、非常用発電機能等を整備してインフラ復旧の拠点になる)(2)ZEB導入(直流配電システムと直流電源対応LED照明に創蓄連携システムを組み合わせて電力変換ロスを削減、地中熱利用換気システム等による省エネを図る)(3)働き方改革(フリーアドレスやカフェ風オフィスによる職場環境の改善を図る)を行い、震災復興の象徴になるビルを目指した。

出典:環境共創イニシアチブのZEBリーディング・オーナー導入実績

「ZEB Oriented」新設

 政府がエネルギー基本計画に掲げる「2020年までに新築公共建築物等、30年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指す」との目標の達成に向けては、新築建築物全体のエネルギー消費量に与える影響が大きい1万平方m以上の建築物のZEBの実現・普及が重要となっている。そこで、ZEBロードマップフォローアップ委員会は第4の定義「ZEB Oriented」を新設した。延べ1万㎡以上の大型建築物を対象に、事務所、学校などに40%以上、ホテル、病院、百貨店、飲食店、集会所などに30%以上の一次エネルギー消費削減を求める。基準を緩和し、エネルギー消費量の多い大型建築物がZEBに取り組みやすくした。 
 また、複数用途の延べ1万㎡以上の建物のZEBの部分評価を認めた。創エネルギーを除く建物全体(非住宅部分)で1次エネルギーの20%以上の削減を前提に、対象部分のZEBを評価する。
 補助金では、環境省の「二酸化炭素排出抑制対策 事業費等補助金(業務用施設等におけるネット・ゼロ・エネルギー・ビル化・省CO2促進事業)」、経済産業省の「省エネルギー投資促進に 向けた支援補助金(住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業)(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業)」の2本柱で推進する。

https://www.mitsubishielectric.co.jp/zeb/