震災後100年の課題紐解く/多分野の知見共有し「盲点」なくす/超高層・高密度観測網の完成も課題
このうち第1セッションでは、「今、関東で大地震が起こったら~過去100年間の社会変容と学術的発展からの展望」をテーマに、主に物理的、ハード的な側面から関東大震災の被害を振り返り、その後の技術などの発展の変遷を追い、現代社会が獲得した強さと弱さなどについて情報を共有し意見を交わした。
セッションでは、目黒公郎東大教授の趣旨説明の後、横田崇愛知工業大教授が地震動特性、楠浩一東大教授が建築系の施設被害、藤野陽三東大名誉教授が土木系の施設被害、安田進東京電機大名誉教授が地盤関係の被害についてそれぞれ解説した。
このうち、橋梁を中心とした土木構造物の被害について解説した藤野教授は、土木構造物の耐震補強が進んだ結果、東日本大震災では、地震に耐えた高速道路が緊急物資や工場で製造した部品の輸送などに大きく貢献したことを紹介した。
ただ、東北新幹線では、高架橋が無事だったにも関わらず電化柱が線路上に倒れたことで機能停止に陥った。このため、標識柱や照明柱などが多い高速道路のことも念頭に「構造物が強くなると付属物に影響が出てくる。こうした新しい被害についても考える必要がある」と述べた。
また、これまで発生した国内外の地震被害を調査・研究した中で、得られた教訓や恩師の言葉を紹介しつつ、「想定外を生む『盲点』を見つけるには、いろいろな角度から見ることが大切」とし、多分野の専門家が知見を持ち寄り、共有することの重要性を強調した。
パネルディスカッションでは、目黒教授の進行で、100年の間に進歩したこと、社会の変化に伴い弱くなった部分、それらを踏まえた今後の研究・対策などについて4人の教授が意見を交わした。
これまでに進歩した点については、高精度でリアルタイムな地震観測などを実現した情報通信技術の発達のほか、超高層建築や免震・制振構造への道を切り開いたコンピューター解析技術などが挙げられた。液状化についても対策技術の開発が進み、高層ビルなどでの被害が減ってきたという。
一方で、楠教授は「超高層建築が増え、都市に人口が集中した。技術革新の裏側では、一棟が抱えるリスクが過去に比べて非常に大きくなっているという問題がある」とし、「仮に建物が大丈夫でも、電気や水が止まっただけで在宅避難は難しいということが、これまでの地震で分かってきた。加えて今後は、本格的な建て替えや解体の必要も出てくる。こうした部分のリスクが、技術的な困難としてわれわれに返ってくるだろう」と述べた。
横田教授は、長周期地震動がもたらす構造物への被害に強い懸念を示し、「地震波の反射や屈折次第では、場所によって局所的に2倍の強さになることなども考えられる。ただ、こうしたことを観測事実として確認できるほどの高密度な観測網はまだ完成していない」と警鐘を鳴らした。
観測網の構築には「高層ビルの設計・施工・維持を担う人たちの協力を得ながら、調査・観測データなどをつくり、共有して、被害を速やかに把握できる新しいネットワークをつくる必要がある」と主張した。
藤野教授も、IoT(モノのインターネット)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用の重要性を指摘しつつ、「インフラなどが地震が起きた後にも使えるかどうかは大きな問題だ。地震発生時の迅速な被害把握や応急対応などは、新しい技術を使うことでよりアクティブになると思う」と述べた。
安田教授は、埋立地などの人工改変地などの地震による液状化被害の問題を指摘し、「広い範囲で被害が生じ、被害を受けた宅地を自力で直すことはできない。私有地の問題だと切り離すのではなく、地区全体で情報を共有し、対策を立てていく必要がある」と語った。
ディスカッションを通して目黒教授は「人間は想像できないことに対して備え、対応することはできない」とし、だからこそ、「関東大震災の全体像を改めて分析することが大切。まだまだ抜けがあるのではないかという観点から、勉強し直す姿勢が必要だ」と語った。
また、災害が発生した後のこととして「どのタイミングでどのような問題に直面するのかを知っていれば、その問題の解決に必要な時間とお金をバックキャスト的に考えることができる。こうしたことをみんなで考えていくことが大切ではないか」と議論を締めくくった。