小型UAV(無人航空機)「IBIS2(アイビスツー)」の開発・販売などを手掛けるLiberaware(リベラウェア、千葉市、閔弘圭(みんほんきゅ)代表取締役)は、通常のUAVでは飛行不可能な狭小空間のUAVにより、発電所や製鉄所、鉄道施設などの点検を中心に採用を増やしている。閔氏は「当初はぶつからないUAVを目指したが、狭小空間ではどうしてもぶつかってしまうので、ぶつかっても飛べるよう方向性を切り替えた」と苦労を振り返りつつ、検査以外の次なる需要開拓も見据える。
◇福島第1原発内部を調査
同社設立の契機は2011年3月の福島第1原発事故にさかのぼる。当時、閔氏は千葉大学大学院の研究員として非GPS(全地球測位システム)環境向けロボットを研究していた。同大が資源エネルギー庁から、事故後の福島第1原発内部をロボットやUAVを使って調査するプロジェクトを受託し、閔氏もエンジニアとして参加した。その過程で「UAV技術の社会実装に関わりたい」との考えが強くなり、16年8月に同社を設立した。
当時はUAVの機体の直径1メートル、重さ10キロほどという大きさなど技術的制約があり、福島第1原発の内部調査が困難だった。時を経て24年3月、1号機原子炉格納容器内部調査で同社のUAV「IBIS」がそれまで未確認だった部分の撮影に成功するという成果を上げている。
◇製鉄所のニーズが先行
原発に限らず、ハードな環境での点検を省力化したい、とのニーズに応えて機体やソフトウエアを開発し、「ほかの環境でも使えるよう改良して汎用(はんよう)性を高めていく」ことが多いという。
早くから同社に関心を寄せたのは新日鉄住金(現日本製鉄)で、ニーズは製鉄所の設備点検用だった。管などの狭く暗い空間での飛行能力、防じん性、高温や化学薬品への耐久性などが必要となる。人間の検査員にも通常のUAVにも困難な環境である。
例えば通常のUAVは、機体周囲の気流の都合上、壁などに接近すると機体が壁に吸い付いてしまい飛行が継続できない。Liberawareの機体は、日本電産と共同開発したモーターなどの工夫により、壁などの障害物に接触しても飛行を継続可能とした。
◇施工管理や災害時の用途も
現在は製鉄所以外にも引き合いが増えている。水路、ボイラー、煙突、ダクト、駅の天井裏、橋脚、歩道橋、港湾の桟橋などの点検で、同社のUAVが稼働する。主な顧客は電力会社、製鉄会社のほか、ゼネコン、鉄道会社、自治体などがある。
点検以外にも活用の場面を開拓する。例えば建設現場の施工管理について、大林組、KDDIスマートドローンと24年から共同開発に取り組む。UAVを建設現場で飛行させて取得したデータから3次元モデルを生成し、既存の施工管理システムと連携させ、現場管理を省力化する。
警察庁主導のプロジェクトでは、災害時の生存者捜索や建造物の損壊調査などの用途で社会実装を目指す。24年1月の能登半島地震でも建物の調査を実施した。
◇商業、オフィスビルも視野
LiberawareはJR東日本コンサルタンツとの合弁会社CalTaを通じて、デジタルツインソフトウエアサービス「TRANCITY」を提供するなど、UAVなどを通じて集めたデータの処理・活用についても改良を続けている。
今後はUAV操縦の自動化など、より高度なUAV運用の実現を目指す。「例えば、商業ビルやオフィスビルのデータを安価に取得・分析できるようになれば、建物の保守管理や建物の資産価値算定の高度化に役立つ。アセットマネジメントに関わる付加価値が提供できる」とさらなる活躍の場を視野に入れる。