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各社がダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の取り組みを進める上で、“気づき”を得ることは少なくない。大林組グローバル経営戦略室ダイバーシティ&インクルージョン推進部長の中沢英子氏はその一つとして「男性の育児参加」を挙げる。
【“ともそだて”一般的に/男性の育児参加】
このテーマについて女性に話し合ってもらう機会を設けると、「『役割分担を決めていても、夫が思うように取り組んでくれなくてイライラする』といった声が少なくなかった。そうした中、ある人が『当番を決めるのではなく、日頃から双方が対応できるようにしておけば、片方が大変なときに自主的に動ける。そうした関係性を築けば良いのではないか。役割を決めるからやってくれないことに対して腹が立つ』と話してくれた。学びになった」と振り返る。
実際に、育児休業制度を「家事や子育てのスキルを学ぶ時間として有効に活用している男性社員がいる」とし、夫婦が協力して子育てする『ともそだて』が一般的になりつつあるという。
この「ともそだて」に対して、日建設計経営企画グループDE&I推進室長で、現在2児の母として子育て中の高田絵美氏は「仕事と似たところがある」と話す。さらに、「仕事で身に付けたスキルが、子育てや家事をする上での夫婦の関係性づくりに生きることもある。逆に、育児で得たスキルが仕事にも生きるといった相乗効果がある」と実感しているという。
学校でダイバーシティ教育が行われるなど、若者にとってジェンダー平等が当たり前なものになりつつある今、“家事や子育ては夫婦で取り組むのがスタンダード”となる日も遠くないだろう。
事実、若手世代には「DE&Iの取り組みを抵抗なく受け入れてもらえることが少なくない」と高砂熱学工業人事部健康推進室長兼人事部担当部長の小杉智子氏。
【対立構造で捉えない/世代間ギャップ】
こうした中、世代間ギャップもある。全国の18-79歳の計3000人を対象に、電通総研が2023年に実施した「ジェンダーに関する意識調査」では、「男は男らしく、女は女らしくあるべきだ」という質問に対して、「そう思う」「ややそう思う」と回答した女性は、18-60代でいずれも2割台だった一方、男性の18-29歳は31.9%、30・40代が4割台、50・60代が5割台、70代は6割台と年代が上がるほど増加する傾向があった。
ただ、取り組みを進めていく中で、中沢氏は「中高年世代だからといって、多様性を受け入れないわけではない。それさえも多様で人それぞれ」と感じている。実際社内には、「非常に柔軟にわれわれの活動を理解してくれ、応援してくれているベテラン世代の人もいる」という。
小杉氏、高田氏もそれに同意し、「世代問わず、さまざまな価値観の人がいる。DE&Iの取り組みを進める上で、世代で区切るような対立的な構図で捉えないようにすることが大切ではないか」と高田氏は強調する。
DE&Iの未来を見据え、小杉氏は「“ダイバーシティの推進”という言葉が出てこなくなる社会を目指したい」と意欲を示す。それは「今はまだダイバーシティが当たり前になっていないからこそ、推進することが企業の取り組みの一つになっている。皆が認め合い、納得して、企業、さらには社会の中にいる状態が実現できるよう、一歩一歩取り組みを進めていきたい」と思いを込める。
中沢氏は「私たちは一日のかなりの時間を会社で過ごしている。そうであるならば、その時間を有意義なものにしなければもったいない。自分の成長が会社のためにもなっているという関係性を、私たちと企業の間で築けるように、取り組みを推進していく」と話す。
高田氏も同じように、「価値ある仕事を通じ、個人も成長して企業も成長するという姿こそが本当に目指したいところ。DE&Iというと、目に見える多様性のところに目がいきがちで、そうした部分に挑戦している部署だと思われるかもしれない。しかし、最終目標は氷山の下にある価値観やものの見方を価値として仕事に掛け合わせ、価値創造につなげていくことだ」と力を込める。
一人ひとりが互いの違いを認め合う土壌は、少しずつ出来始めている。そうした土壌があってこそ、公平という観点に納得感が生まれる。DE&Iは企業が持続的に発展していくために必要なだけでなく、より良い社会を生み出すことにつながるはずだ。
高田 絵美氏(たかた・えみ)2005年日建設計入社後、都市計画・都市開発の部門で、東京ミッドタウン日比谷などの大規模複合型民間開発プロジェクトに携わってきた。25年から現職。2人の子どもとともに地域で行われる阿波踊りに参加する予定で、お囃子隊のメンバーに。本番に向け、篠笛の練習に奮闘中。
中沢 英子氏(なかざわ・えいこ)1986年大林組入社後、CAD関連システムや技術系部門業務管理システムの開発・支援を手掛けてきた。本社DX本部業務管理部担当部長などを歴任。2021年から現職。学生時代は勉強とスポーツの両立を意識。その経験から「複数のことをバランスを取りながら行う」ことが特技に。
小杉 智子氏(こすぎ・ともこ)1990年高砂熱学工業入社。情報システム部や経営企画部で勤務した後、2017年経営企画部CSR推進室長、22年総務部長を経て、25年から現職。趣味は旅行。「楽しみながら健康寿命を延ばす」ことを心掛けている。最近はトレッキングを始めた。