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    ホーム > WEB刊 > 公式ブログ > 【明日のパレット(9)】建築家 内藤廣/言葉にならない体験
公式ブログ

【明日のパレット(9)】建築家 内藤廣/言葉にならない体験

最終更新 | 2025/12/24 09:55

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 学生の頃から随分放浪した。当時の早稲田大学は、まだ学生運動の名残が色濃く残っていた。大学に行ったところで、キャンパスはロックアウト、正門は椅子と机が乱雑に高く積み上げられていて入る隙間もない。殴り書きの立て看板が立ち並び、覆面をしてヘルメットを被り、ゲバ棒を持った学生がウロウロしていた。授業の多くは休講、課題も提出するだけ。

 大学にはなにもない。そうなればアルバイトをするしかない、ということになる。行き先は設計事務所、バイト代は知れたものだったが、それでも少しは金が貯まる。そうするとそれで旅をした。まず上野駅まで行って、そこで行き先も決めずに切符を買って夜汽車に乗り込む。ほとんどが東北や北海道。男は悩むと北に向かうのだ、と誰かが言った。1年の3分の1くらいは当てもなく旅をしていたのではないか。日常を離脱するためのただの当てもない旅だ。都会以外の場所で深呼吸し、頭をカラにし、何者にも拘束されず、束の間の自由を味わいたかった。

モロッコ・マラケシュでの内藤氏


 このクセは次第に拡大していく。大学院の時はサハラ砂漠を縦断するという今から思えばかなり無謀な計画を立てた。友人二人とパリでクルマを借りて南下し、ジブラルタル海峡を渡って南下しようと試みた。しかし、当時過激派の日本赤軍が潜入したという情報があったらしく、日本人はモロッコ国境を越えることができなかった。とんだトバッチリだった。諦めて南スペインからイタリア南端のシシリーまでの地中海沿岸を数千キロ旅した。

 この時も建築には気持ちが向かなかった。ギリシャもローマもルネサンスもバロックもモダニズムも、まるで関心がないから記憶に残っていない。友人二人に付き合って、お決まりのスケッチくらいはしたが、まるで気持ちが入っていなかった。唯一心に引っかかったのは、バロセロナのガウディ。コロニア・グエルの小さな教会の清楚な空間は心に残った。

 スペインで武者修行をしていた時も、毎月のようにポルトガルやフランスに短い旅をした。ひと月近くあった夏の休暇中には北欧やトルコも含めて、ほとんどの国に行ったと思う。また、ヨーロッパからの帰りはシルクロードを踏破すると決めていたので、トルコ、イラン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパールまで陸路で放浪した。ボスフォラス海峡を渡る時の感覚、アフガニスタンの高原砂漠を渡っていく遊牧民、カイバル峠の谷の隙間から見えた緑に埋め尽くされたヒンドスタン平原、鏡のようにないだ夜明けのベナレスの河畔…そこに建築の姿はない。その時だけでしか味わうことのできない一期一会の体験があるだけだ。

 後年、モンゴルのゴビ砂漠を何度か訪れた。砂漠に落ちる夕陽、天空を裂くように横切る天の川、滞在するゲルのテントは建築だろうか。身を守る道具以外の何ものでもない。人という奇妙な生き物の命を支える道具。もともと建築とはそういうものなのではないか。

 とはいえ、一人の建築家として思い悩むことはある。その時はハッキリと目標を定めて建物を見に行く。それを旅と言えるかどうか分からない。

モロッコ・マラケシュのスケッチ(1978年)


アフガニスタン・カンダハールのスケッチ(1978年)


 ルイス・カーンのエシェリック邸やキンベル美術館。全く行き詰まっていると感じていた近代建築の思考の果てにも密度のある空間が成立しうると思えたことが救いだった。アールトのマイレア邸。人の暮らしの成熟した姿を垣間見た気がした。そのほかにもいくつもあるが、いずれもそれ一点だけを見に行ったようなもので、それを旅とはいえないだろう。おそらくわたしの中での旅のイメージは、偶発的であり予測できないものであるようだ。

モンゴルのゲル(1996年)


 単に列車に乗ったり飛行機に乗ったりすることが旅だとするなら、わたしの仕事は旅の多い仕事だ。建設現場にはできるだけ足を運ぼうとしている。また、まちづくりに関われば委員会や街の人との交流も欠かせない。となると、出張が多くなる。その都度、新鮮な出会いがあり、気づきがあり、時に感動がある。それを旅と呼んでよいのか分からないが、よく考えてみれば、若い日々の旅以来ずっと旅を続けているような感覚になることもある。

 最近、不可能に近い願望として抱き続けているのは、旅で出会った素晴らしい体験を設計の中にわずかでもよみがえらせること。それがわたしがやるべき仕事なのではないか。消えてなくなるのはもったいない。伝えるべき価値がある言葉にならない体験。それを設計している建築に託したいと思っている。

 いささかキザな言い方になるが、風に吹かれてゆく人生は旅であり、ボブ・ディランが歌ったように「答えは風の中」。それを探してわたしは、まだ本当の旅人になりきれていない旅の途中なのだと思う。

写真は全て内藤廣氏提供

 このシリーズは、建築家の方々に旅と建築について寄稿していただいています。

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