【column BIM IDEATHON(6)】データの流通性(3) ~共通化に必要な課題の整理~ | 建設通信新聞Digital

4月23日 火曜日

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【column BIM IDEATHON(6)】データの流通性(3) ~共通化に必要な課題の整理~

 前回、前々回のコラムはデータの流通性について「設計情報の記述および伝達」「個別最適の限界と共通化の動き」について触れた。今回はデータの流通性に必要な共通化に立ちはだかる課題と動向について考えてみたい。

◆「共通化」に立ちはだかる課題
 「BIM元年」と言われた2009年以降、建設業界はBIMに取り組んできた。BIMが効率的な業務プロセスに貢献し、それを成立させるためにはデータ流通の効率化を図るべきという認識が広まると、データの流通性の向上に必要な「共通化」に立ちはだかるさまざまな課題が浮き彫りになってきた。課題の中には日本の独自の商習慣など、以前から議論になっていたものもあれば、建築情報の分類体系など、これまでなら研究ベースでしか見聞きすることのなかった他国の仕組みもあった。建築学会など筆者らが参加している社外会議で議論されている課題の一部を下記に並べてみた。その一部についてはBIM IDEATHONで取り上げたものもあり、今後のコラムにて述べていきたい。

◆課題解決への動向
・buildingSMART
 buildingSMARTは建設業界におけるデータの共有化および相互運用を目的として、IFC(Industry Foundation Classes)の策定や標準化活動を行う国際的な団体である。現在18の国際支部があり、毎月の会議では建築、施工、インフラ、鉄道、法規などの分科会に分かれ、共通化の議論がなされている。最近では発注側(空港、駅)や土木分野側のIFCへの関心が高まり、参加する企業が増えている。欧州では鉄道が国境を越えて物理的につながっているため、全体で管理するためには国際標準(ISO)が求められる。また、大型の空港や駅などは複雑で、高いセキュリティー機能と、低コストでの施設情報管理が求められる。さまざまなソフトで情報が扱える国際標準が発注者側から評価され始めている。
・建築確認へのBIMの応用
 国内でも共通化への活動が少しずつ起きている。民間検査機関が主導して立ち上げた「BIMを活用した建築確認における課題検討委員会」では確認申請の表現標準や入出力情報の検討が進められている。コラム第4回において紙とデジタルによる建築情報の伝達について述べた。紙による情報流通の具体例である確認申請において、デジタル化が進む動向として注目している。
・BIMライブラリーコンソーシアム
 BIMを構成する扉や衛生器具等のオブジェクト(部品)に対する統一的な記述を構築しようとするBIMライブラリーコンソーシアムも検討が進み、報告素案が発表された。欧州には各国にBIMライブラリーが存在し、互換できるように仕様が共通化されている。各国のオブジェクトの仕様を変換できるbSDDという仕組みもbuildingSMARTでは検討が進んでいる。国内のBIMライブラリーも国際的な分類体系にあった形で実装が期待される。
※bSDD(buildingSMART Data Dictionary)=製品情報の言語間の変換を可能にするオブジェクトと属性の国際的なライブラリー

◆企業の垣根を越えた取組と国際化の波
 先に挙げた課題はこれまでも諸先輩方が業界や学会で議論されてきたテーマである。これまでは日本の商習慣の違いから、建築業界では海外と国内のプロジェクトを別々に運営してきたため、それら課題の国際化は強く求められなかった。しかし、海外に目を向けると、BIMという概念を契機に国ごとの業界の特異性は小さくなり、海外の建設業界は国際化へ進みつつある。イギリスは「Digital Built Britain」という成長戦略を打ち出し、国際競争力と市場の拡大を狙っている。中国は「一帯一路」政策で道路や港といったインフラ分野の標準化に力を入れている。
 日本も固有の課題を迅速に解決し、国際化に沿った共通化を行うことで縮小している国内市場から海外へ目を向け、SDGsで追い風の吹く環境分野を中心に世界の市場を狙っていくべきである。建設業界の国際化の波に乗れるよう、企業の垣根を越え、データの流通性を高め、国際的な競争力を高めなければならない。
(日建設計/安井謙介)

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