【土砂災害リスクの「見える化」】大学・企業が連携し、住民参加型の防災システムを構築 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

公式ブログ

【土砂災害リスクの「見える化」】大学・企業が連携し、住民参加型の防災システムを構築

 高齢化と過疎化が進む山間集落で住民自らが日常的に計測に参加できる防災システムが導入され注目を集めている。ほぼ全域が土砂災害警戒区域という福井市高須町でのOSV(On-Site Visualization)技術を活用した「住民参加型斜面計測・モニタリング」システムだ。日常と違う「異変」や災害の「予兆」といった危険度を高齢の住民にも分かりやすく「見える化」する仕組みとともに、住民の自発的な活動を促すためには、「社会学的な見地からの経験や知見、ノウハウが必要だった」と、同システム構築に参画したアサノ大成基礎エンジニアリングの佐藤毅事業推進本部副本部長兼技術研究所長は語る。

高須町の土砂災害ハザードマップ

 OSVとは、身の回りで起こっている変化を簡易な装置で検知し、その場所(On-Site)で表示(Visualization)する方法論であり、仕組みを意味する。
 高須町は、福井市の中心部から北西に約20㎞離れた高須山(標高438m)の中腹に位置する農村集落で人口は94人。その半数以上が高齢者で児童や中・高校生、大学生などの未成年者はいない。棚田の景観で知られ、市の中山間地域モデル集落に選定されている一方、集落に通じる道路は2本だけで道幅も4m程度と狭く、町内の道路は斜面に囲まれた山林道路で斜面崩壊が発生すれば寸断され、地区全体が孤立する可能性がある。
 こうした土砂災害のリスクが高い山間集落でいかに地域防災力を高めることができるか。福井大に在籍当時、地元からの陳情を受けて防災活動の仕組みづくりに取り組んだ経験がある立命館大学理工学部の小林泰三教授が、さまざまな種類の「計測と可視化を同時に行うことができる装置」の研究開発に取り組む、OSV研究会(代表理事・芥川真一神戸大工学部教授)の活動に着目した。
 研究会メンバーで福井市での業務実績も数多いアサノ大成基礎エンジニアリングの佐藤副本部長・技研所長とともに、関西大学社会安全学部の小山倫史、近藤誠司両准教授も加わり、土木工学的な計測技術と社会学的見地を融合した住民参加型防災活動の仕組みづくりが2017年11月からスタートした。

■OSV技術で 計測を日常化

 まず意識したのが「素人である住民の方々が理解でき測ることができるシンプルな装置」(佐藤氏)であること。小学校の体育館裏にあるブロック擁壁や農道沿いのブロック擁壁などには傾斜の度合いを光の色で表現する発光型傾斜計「POCKET」を設置。棚田の斜面変形監視には、LEDの光源を手前に固定し、モニタリングしたい場所に鏡を置いて光源が映るようにしたSOP(Singlie Observation Point)を設置した。鏡に光源の光が映っていなければ、その場所で何らかの変状が発生したことが分かるというわけだ。
 さらに、のぞき窓を取り付けた基準ポールと変位を計測する観測ポール(数本)を一直線上に並べて設置し、基準ポールからの見通しで観測ポールの動き(ずれ)を確認する「見通し棒」も、市道沿いの谷川擁壁などの斜面監視に活用した。
 これらはいずれも住民が自ら危険度が高いと判断した場所に設置。いつも見ている日常の風景の中で光や色など「一目で分かる表示」によって、低コストで変化をリアルタイムに視覚的に確認することができる。

のぞき窓から地形の変位が分かる「見通し棒」

 こうした「住民参加型」の計測・モニタリングを日常化するため、住民向けの手作り瓦版『たかすいかす』を発行し情報の周知や共有を図っているほか、住民による日常的な観測の中心的な存在として4人の女性による観測隊「高須あんしん感測隊」を19年4月に結成。これまで行政や技術者など、いわば「他人任せ」となっていた「身の回りの安全度の判断」を自ら行い、安全・安心な生活環境を実現していく、住民たちの自助・共助による防災活動が地道に進められている。
 大学・企業が相互に連携し、地域住民と 協力しながら多角的に工夫して防災活動の仕組みを構築・支援したことが評価され、ことし3月には地盤工学会関西支部の19年度社会貢献賞も受賞している。

斜面の裏に住居を構える掃部さんは水道マンホールを基準点に日常的な観測を率先して実施

 国土交通省がまとめた全国における土砂災害警戒区域の指定状況はことし3月末時点で62万2036カ所に及ぶ。気候変動に伴う降雨特性の変化などによって土砂災害のさらなる激甚化が懸念される中で、財源や人的資源の面からも対策が遅れがちな中山間地域での住民自らの判断による早期警戒、早期避難行動につながる好事例として、広く関心を集めそうだ。

建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら