【"国土の均衡ある発展"は今】時代とともに動きも変化 大都市一極集中是正への取り組み | 建設通信新聞Digital

5月9日 木曜日

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【”国土の均衡ある発展”は今】時代とともに動きも変化 大都市一極集中是正への取り組み

 「国土の均衡ある発展」と聞いて、懐かしいと感じる人もいるかもしれない。高度経済成長期以降、かつての全国総合開発計画(全総)をはじめとした日本の国土政策の中心に据えられてきたキーワードだ。いまとなってはあまり耳にしないが、実はその思想は現在も脈々と息づいている。最近では官民双方で、大都市一極集中の是正や地方居住の促進などに向けた取り組みが多く見られるようになった。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う価値観や生活様式の変化、テレワークの普及なども背景にある。

◆現行計画にも明記
 政府が2015年に閣議決定した現行の「第二次国土形成計画(全国計画)」は、異なる個性を持つ各地域が連携することでイノベーションを促す「対流促進型国土」を目指し、国土構造として「コンパクト+ネットワーク」の形成を掲げている。一方、本文中には「これからの時代にふさわしい国土の均衡ある発展を実現」という記述もある。「これからの時代にふさわしい」とのただし書きはあるが、現行計画も国土の均衡ある発展から軸足を外していない。

 全総時代から続く「均衡ある発展」という表現はさまざまな解釈ができ、さまざまな議論を呼んだものの、東京一極集中の是正や地域格差の縮小などに向けて使われるケースも多い。かつて日本でも、21世紀を目前に首都機能移転の議論が本格化した。一極集中に対する究極の是正策であり、「ミスター全総」と呼ばれた下河辺淳元国土事務次官の意向も強かったとされる。

 当時、政府の審議会が3つの広域圏を移転候補地として絞り込み、地方自治体は予算を確保して首都機能の誘致合戦を繰り広げたものの、その後の検討は進まなかった。誘致中の自治体はハシゴを外される形となり、国に対する恨み節がしばらく続いた。



◆官民で一極集中是正
 その後、大震災など相次ぐ自然災害を踏まえ、首都機能のあり方が議論になる場面が再び増えた。首都の全面移転まで踏み込まずとも、政府機関や経済・社会機能の分散といった提案も多い。

 一極集中の是正や地方創生に向けた取り組みは、官民双方でみられるようになった。政府機関では文化庁の京都移転、民間でも本社機能を地方に移す企業がある。テレワークの普及によって地方移住などの関心も高まりつつある。不動産会社は、ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」のプランを相次いで打ち出している。

 国土交通省の「企業等の東京一極集中に関する懇談会」(座長・増田寛也東大公共政策大学院客員教授)は1月下旬、これまでの会合の検討結果をまとめた。一極集中是正の取り組みの方向性として、テレワークの普及、地方での修学・就労環境整備、新たな価値観・生活様式への転換などを示している。あわせて、「我が国の成長を牽引すべき東京の国際競争力の維持・向上とのバランスを図ることも重要」と指摘した。

本社事業所のリスク対応状況(災害時の代替・バックアップ拠点の整備)
出典:国交省国土政策局「企業等の東京一極集中に係る基本調査」(2020.11速報)

 一方、日本経済団体連合会は2月に提言「非常事態に対してレジリエントな経済社会の構築に向けて」をまとめ、山内隆司副会長らが小此木八郎防災担当大臣に手渡した。提言の中では、一極集中の是正をテーマの1つとして掲げて、「今回の感染症を契機に、解決に向けた取り組みが一層重要性を増している」と指摘。企業がBCP(事業継続計画)の見直しやサプライチェーンの多元化などを進めることで、地方への事業移転による好循環を期待している。地方のレジリエンスを向上させるため、サービスやインフラを効率的に集約する「コンパクト化」、都市機能などを交通ネットワークやデジタル技術で相互につなぐ「ネットワーク化」なども求めた。



◆これからの時代
 政界の動きも表面化している。自民党内では昨年度、首都機能移転に関する勉強会が立ち上がった。これとは別で、今年度に入ってからは6月に「社会機能の全国分散を実現する議員連盟」が発足している。いずれも一極集中への問題意識が根底にある。後者の議連は、首都機能そのものの移転ではなく、首都直下地震の発生なども念頭に政府機能の一部移転や代替施設の確保を進めたい考えだ。

 新型コロナの影響で、われわれの足元の環境、生活様式や働き方、価値観などがごく短期間に大きく変わった。この変化を契機とした新たな取り組みもある。国交省は今月9日、「全国二地域居住等促進協議会」を設立する。都市で生活しながら地方でも暮らす新たなライフスタイルの普及に向け、600を超える地方自治体や関係団体、民間事業者などと連携する計画だ。設立の背景について同省は、「ウィズ・ポストコロナ社会でテレワークなどを前提に、地方での新しい生活様式に沿った新たな二地域居住が可能となるとともに、そのニーズが高まりつつある」としている。

 「均衡ある発展」は普遍的な文言かもしれないが、その解釈や実現に向けたアプローチ手法は必ずしも不変ではない。昭和、平成、令和と時代は変わり、これからの時代にふさわしい国土の発展はどうあるべきか。多様な主体による検討や相互連携が、おのずとグランドデザインを描き出すかもしれない。

2月22日、小此木防災担当大臣(中央左)に提言を手渡す山内経団連副会長(写真提供・経団連)



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