【ポストコロナの都市が求める視点】日建設計とパシフィックコンサルタンツのトップが討論会 | 建設通信新聞Digital

5月5日 日曜日

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【ポストコロナの都市が求める視点】日建設計とパシフィックコンサルタンツのトップが討論会

日建設計・大松 敦社長

パシフィックコンサルタンツ・
重永 智之社長


 日建設計とパシフィックコンサルタンツのトップが、両社主催のオンラインイベントで、ポストコロナの都市・地域づくりに必要な視点などについて討論した。日建設計の大松敦社長は、「共創による新しい社会」、パシフィックコンサルタンツの重永智之社長は「多様化する指標への対応」をキーワードに挙げ、コロナ禍で多様化する価値観に対応した都市・地域の実現には、領域を越えた建築・土木のさらなる協働が重要になるとの認識を示した。






 両社は2月18日、都内で「ポストコロナにおける都市・地域の展望」をテーマにしたオンラインイベントを開き、共同で進めてきた研究の成果を発信した。イベント視聴には2000件を超える申し込みがあり、コラボレーション企画は注目を集めた。トップ討論はイベントの第2部として企画し、ロフトワークの林千晶代表取締役がモデレーターを務めた。

 東京都心部のTOD(公共交通指向型開発)などでは、都市が抱える複雑な課題を解消するため、建築・土木の連携が不可欠になっている。両社も東京・渋谷駅とその周辺の都市基盤の課題解消や連鎖的な再開発を始め、都市の課題に対応するために連携する機会が増えている。

 渋谷のまちづくりで両社は20年近く協働しており、重永社長は今回のイベントについて、「さまざまな取り組みの中で、双方の呼吸を合わせていくことが非常に重要になっている。都市をどのようにしていくのかを話したいということで実現した」と説明した。

 大松社長は渋谷での協働を踏まえ、「これからの都市づくりで、もっと幅を広げて考えていけるのではないかということで企画した」とし、連携に意欲をみせた。

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴う行動変容が社会構造にも大きな影響を及ぼしている中、今後のオフィスのあり方については、大松社長が「ブレインストーミングや若い社員の育成などは集まった方が良いケースもある。一方、コロナ禍で半ば強制的に移行した新たな働き方でも十分に対応できることがわかった。コロナでさまざまな可能性が広がっている」とした上で、「社員のアイデンティティーの拠り所になるような形態になる。なくなって良いということにはならない」との考えを示した。

 重永社長は、「年代、個人によって異なるが、打ち合わせは対面でなければだめという社員もいる。オフィスのスペースはそういった部分にも対応していかなくてはいけないが、いままでのように1000人の社員がいたら1000席分用意するという時代ではなくなる」と、多様な働き方に応じたオフィスづくりの必要性を指摘した。

 ポストコロナ時代の都市・まちづくり像については重永社長が「豊かさの指標も多様化している。そういうものもひっくるめた、まちづくりが必要になる」とし、建築・土木の連携がますます重要になってくるとの認識を示した。

 大松社長は、「経済の指標に乗じて幸福感が高まっているかと言えば疑問がある」とし、経済的な豊かさだけでなく、多様な価値観への対応がより重要度を増すと見通した。

 重永社長は、ウイルスへの対応も持続可能な都市の大きな要素になると指摘。また、「いまの都市はどこに行ってもたいがい似たような店舗がある」とし、都市間競争を勝ち抜くための独自性をキーワードに挙げた。

 トップ討論に先立って発表された両社ワーキングメンバーの共同研究成果では、コロナ禍を受けて、都市機能がニーズに即して最適化されて一部分散するほか、生活圏を中心に多様な機能が集積し、都心・郊外それぞれが個性を持った都市圏を形成する「自律分散型の都市構造」が進むと仮定。自律分散型の都市構造を実現する担い手については、地域マネジメントを担う主体が、売電や遊休資産の利活用による収益を得る一方で、地域の運営・投資を行い、地域のエコシステムを創造する中心的な役割を担う、地域マネジメントプラットフォームの必要性を提言した。

 自律分散型の都市構造の実現に向けた取り組みについて大松社長は、「さまざまな活動にトライできる仕組みが重要になる。トライアルしているうちに個性が出てくる」とし、重永社長は「行政もそれを受け止めてくれることが重要になってくる」と指摘した。

討論ではロフトワークの林代表取締役(右)がモデレーターを務めた



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