世界貿易センタービルディングはRC・SRC・S造地下3階地上40階建て塔屋2層延べ16万2315㎡の規模を誇った。設計は日建設計(意匠・設備)、武藤構造力学研究所(構造)、施工は鹿島が担当した。霞が関ビルに続く2番目の超高層ビルとして計画され、70年3月1日に竣工した。建設現場は霞が関ビルの建設をテーマとした劇映画『超高層のあけぼの』の撮影舞台ともなった。
鉄道・道路・港湾・空港の結節点である浜松町のシンボルとして、50年間にわたって貿易の拠点機能を担ってきたが、世界貿易センタービルディングを含む地区再開発計画が動き出し、解体が決まった。
しかし、その解体は容易ではない。建物自体の高さという難問に加え、立地場所がJR浜松町駅と東京モノレール浜松町駅に直結し歩行者や車の交通量が多く、都営地下鉄大門駅や新幹線の線路など重要なインフラ施設にも近接している。解体ガラの外部への落下や粉じんの風散・飛散、騒音対策を通常以上に徹底する必要がある。
鹿島は超高層ビルの解体に対応できる技術として、「鹿島カットアンドダウン工法」を保有する。“だるま落とし”のように下階から解体していく同工法は解体作業エリアが一定であるため、気流の解析による粉塵飛散量や騒音の伝搬などを評価しやすく、周囲環境への影響を抑えられる。
しかし、超高層ビルの黎明(れいめい)期に建設した世界貿易センタービルディングは、鉄骨の製作技術がその後の超高層ビルほど進んでおらず、外周柱でさえ約50本と多い。カットアンドダウン工法はジャッキで建物を降下させる仕組みのため、柱の数に比例してジャッキの台数が増える分、非効率となってしまう。
そこで今回の解体で新たに「鹿島スラッシュカット工法」を開発し導入した。先行して「斜め切断カッター」によりスラブを大割ブロック化した後、地上で小割解体する。粉じんの飛散・風散や騒音が発生するスラブ切断などの作業は窓や外壁で囲まれた密閉空間で完結し、大割ブロックはせり下げ足場で囲ったトップ階から建物内部に設けた大型揚重開口を通ってつり下ろすため、周辺への影響を最小限に低減できる。
スラッシュカットという工法名のとおり、ポイントは斜め切断カッターにある。垂直ではなく、斜めに切断することで、切断後は隣接するスラブが荷重を支えるため、階下にスラブの落下を防ぐ支保工を存置する必要がない。従来のブロック解体工法の課題であった仮設支保工の存置量の増加に伴うコスト・工期の増加を解決した。
世界貿易センタービルディング解体工事では、2台の斜め切断カッターを投入し、7日程度かかる1タクトを5日に短縮した。工期全体で1割程度の縮減効果を発揮し、その結果、一般的な解体工法と遜色ないコストでできた。
切断作業に重機を使用しないため、CO2の削減にも貢献する。必要な解体重機の台数は階上解体の場合の12台から6台に半減。CO2量は階上解体に比べ2割程度削減できる。
スラブ切断時に発生するノロ水はろ過・脱水する装置を通すことで、ノロ水を脱水ケーキにして廃棄物を削減する。ろ過・脱水後の回収水は再生水として循環させ、スラブ切断に再利用している。
スラブの切断時に必要な荷重受けの機能は新開発の「スラブ切断兼吊上げ治具」が担う。つり上げる際に必要な曲げ破壊を防止する機能も兼ね備えており、ブロックの大型化による揚重回数の削減を実現した。
切断した大割ブロックは新たに開発した4点自動つり上げ装置で建物内部の大型揚重開口からつり下ろす。大割ブロックを水平な状態で揚重可能なため、作業員の高所作業を少なくできる。地上階につり下ろす際の大割ブロックの姿勢は遠隔操作で制御し、安全な姿で着地させて搬出作業時間を短縮する。
同社の伊藤仁専務執行役員建築管理本部副本部長は「現時点で再開発案件は多くあり、今後、超高層ビルを解体して再開発する案件が増えてくるだろう」と予測する。鹿島スラッシュカットと鹿島カットアンドダウンの両工法を使い分けながら、新たなまちづくりに向けた超高層ビルの解体ニーズに応えていく。
新工法・現場の様子を動画で紹介。ご視聴はこちらから