世界で数百万人ものユーザーをもつオートデスクの汎用CAD『AutoCAD』は2次元作図や3次元モデリングの機能を搭載し、建設業だけでなく、製造業などに幅広く愛用されている。近年はAutoCADと互換性のある2次元CADソフト(互換性CAD)も多数登場している。手頃な価格設定を売りにする互換性CADだが、実際の使い勝手はどうか。CADインストラクターの芳賀百合氏が試みたAutoCADと互換性CADの比較検証は、購入検討時の参考になりそうだ。
互換性CAD 操作のつまずきが作業負担に
芳賀氏は日頃のCAD講習で使う図面実習の作業をベースに、AutoCADと三つの互換性CAD(体験版)の性能を比較した。「AutoCADの手順に沿って互換性CADを使ってみると、さまざまな部分で作業上のちょっとしたつまずきを感じることがわかり、その一つひとつの作業上の負担を時間として集計した。あくまで私自身の経験値に基づく推測値であり、参考程度にしてもらいたい」と語る。
比較検証では、互換性CADを操作する際のつまずきを3秒(一瞬戸惑う)、5秒(軽微な手順変更)、20秒(中低度な手順変更)、60秒(大幅な手順変更)の四つに区分けし、作業工数ごとに細かく集計した。「実に根気のいる作業だった」と振り返る。
ハッチングの作図オプションでは操作過程で一時的に開かれるダイアログ(小さな画面)が表示されたままとなり、カーソルで戻す手間が生じる。数値変更の際にはオートセレクト機能が不十分であるため、修正時のカーソル合わせが必要になる。「三つの互換性CADはともに作業上の細かなつまずきが随所で見られた」という。
ブロック挿入の時にはAutoCADのようなギャラリー表示がない互換性CADもあり、使いたい図形をダイレクトに選定できないストレスを感じた。作図や修正で線の色がプレビューされないケースもあった。「AutoCADと比べると、総じてプレビュー機能の有無や操作ステップ数の多さが気になった」と付け加える。
検証では機能や作業ごとに作図負担時間を割り出し、そこから作業工数を比較した。例えば1.16倍の場合はAutoCADで100時間の作業が、互換性CADでは116時間かかることを示す。「重要なのはストレスなく使えること。ちょっとしたつまずきも、積み上げればユーザーの大きなストレスになる」と考えている。
AutoCAD 改めて感じた使い勝手の良さ
最大シェアを誇るAutoCADだが、企業にとっては最新バージョンに切り替えるタイミングなどで、手頃な価格の互換性CADの導入を検討するケースも少なくない。「実は作業上の負担だけでなく、出力した図面にも大きな違いが見られた。作図線ひとつとっても見やすさやバランスが異なり、この比較検証を通して長年使い勝手を追求してきたAutoCADの総合力を改めて実感した」と強調する。
互換性CADを導入する場合、AutoCADの時と同様のパフォーマンスが発揮できるか否かも重要な視点だ。「導入時には社内のドキュメント整備や作図ルールの再構築が欠かせないだけに、まずは私のように互換性CADの体験版で徹底的に検証してから判断をしてほしい」と訴える。
BIMの導入にかじを切る企業では、BIMソフト『Revit』を軸に置きながら、2次元の作図部分はAutoCADを活用するケースが多く、RevitとAutoCADを効果的に使い分けている。「互換性CADの手頃な価格ばかりに目を奪われてはいけない。作業時間は言い換えれば人件費であり、より使い勝手の良いツールを選ぶことこそが最良の選択肢」とアドバイスする。
芳賀氏は8月6日に大塚商会が開催するオンラインセミナーで「CAD選びのコツ」をテーマに登壇し、AutoCADと互換性CADの比較検証について解説する。セミナーの参加は無料、2日午後1時まで大塚商会の特設サイトで受け付けている。芳賀氏は土木設計事務所のCADオペレーターを経て、現在は企業の新入社員研修やCAD講習を担うCADインストラクターとして活躍中。『はじめてのAutoCAD』『AutoCAD完全ガイドブック』など執筆した著書は20冊を数える。