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倍率は約53倍–。約1900組もの応募者の中から、参加権を勝ち取った36組が6月16日、国内外で大きな注目を浴びている北野牧工事の施工現場を訪れた。「NHKの解体キングダムを見て興味を持った」との声も。NEXCO東日本関東支社が主催した現場見学会に同行取材した。 同工事は、上信越自動車道松井田妙義IC~碓氷軽井沢IC間の北野牧トンネル長野側直上約70mの崖面で巨大な岩塊(がんかい)を掘削して除去する。将来的に落石する危険性のある岩の塊を事前に取り除き、高速道路の安全性を向上させる世界に類例のない予防保全工事だ。NEXCO東日本関東支社が発注し、大林組が施工している。設計は応用地質が担当した。現在、本体工である掘削工が鋭意進められており、掘削土量約9万5000m3のうち、23%が撤去済みとなっている。
工事は大きく三つのフェーズに分けられる。まず「落石・トンネル対策工」では、供用中の高速道路直上で施工するため、崖面にロックボルトを直接打ち込み、高強度金網で固定して崖面全体を補強した。その上で、落石や飛び石による事故防止のため、4t分の発泡スチロールの軽量性・緩衝特性を生かしたロックシェッドをトンネル坑口上部に架設。岩山全面を覆う防護柵も設置した。これは足場も兼ねている。
「仮設備工」では、掘削した岩・土砂や資機材を場内外に搬出入するインクラインと呼ばれる大型の工事用エレベーターや仮桟橋の設置、軽資機材や人員を運搬するための積載荷重3t級モノレールなどを設置した。
そして2023年3月から油圧割岩(ビッガー)・大型ブレーカーを使って硬い安山岩の岩山を掘削する「掘削工(本体工)」を進めている。
見学会当日は、頂部の掘削工の様子を公開。参加者は工事用エレベーターのインクラインに乗って頂部に向かった。現場では、実際に施工で採用されている油圧割岩工法(ビッガー工法)で、クローラドリルで開けた穴に、くさび(ビッガー)を打ち込み、亀裂を入れる一連のプロセスを間近に見ることができた。
その後、頂部から足場を使って高速道路真横の落石・トンネル対策工現場まで降り、実際に使用しているロックシェッドのサンプルとして、発泡スチロール1ブロックを見学し、帰りは3t級モノレールに乗って現場を後にした。参加者からは「普段は立ち入ることのできない現場で足場やエレベーター、モノレールなど貴重な体験ができた」といった声が上がった。
上信越自動車道の交通量は1日当たり約2-4万台。橋梁やトンネルなど多くの構造物が連続していることから、工事規制には難しい条件が重なる。規制に当たっては、デジタル情報板や視認性の高い誘導灯を設置するなど高速道路利用者への安全の配慮も欠かせない。
大林組の下村哲雄上信越北野牧工事事務所所長は「高速道路がすぐ真横を通っているだけに、モノの落下防止を最優先に工事を進める」と高速道路利用者など第三者対策に細心の注意を払う。その上で、場内での現場関係者の安全管理にも「雷などの自然災害が多い現場。災害防止を常に心掛けている」と強調し、「大自然を相手にしている分、非常に魅力も感じる」と仕事のやりがいも口にする。
NEXCO東日本関東支社の小暮英雄長野工事事務所所長は、現場見学会の主催者として「多数の応募があって非常にうれしい」と相好を崩しつつ、難工事とあって、「安全安心な高速道路をつくるという使命感の下に進めている。安全が全てを制するという意識を持ち続ける」と話す。「自然と調和しながら、より良い構造物をつくれたら」と先を見据える。
本工事は2期に分けて発注されている。1期の桟橋・構台などの仮設備工や落石対策工の工期は17年2月21日から23年9月17日まで。桟橋架設にはLIBRA(リブラ)工法などが採用された。今回の見学会で公開された掘削工や仮設備撤去工など2期の工期は23年2月9日から29年4月7日までとなっている。