【現場最前線】ラオスの黒四! 雨・暑さと闘うナムニアップ1水力発電所建設工事 | 建設通信新聞Digital

4月24日 水曜日

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【現場最前線】ラオスの黒四! 雨・暑さと闘うナムニアップ1水力発電所建設工事

主ダム堤体現場。左岸右岸からコンクリート運搬用ベルコンが縦横に伸びる。手前が発電所施設

 「第二の黒四(くろよん)」--。関西電力にとって、それほど重要な位置付けとなるダムの建設工事がラオスの山中で進んでいる。融資から事業運営、施工まで“オールジャパン”で取り組み、ダム本体工事を中心とした土木・建築工事は大林組が施工している。目立った生産品のないラオスにとって貴重な“輸出品”である電力を生み出すことになる。2019年1月31日の営業運転開始に向け、アジアの山奥で雨と暑さとの闘いがいまも続いている。 ナムニアップ1水力発電所建設工事の現場までは、ラオスの首都ビエンチャンからメコン川沿いを東に145㎞下り、支流のナムニアップ川沿いを40㎞上流にさかのぼる。周囲は、昔ながらのアジアの村々が点在するのどかな光景が広がる。
 ダム本体だけでなく、アクセス道路、転流用トンネル掘削、発電所建築、原石山掘削などすべてを1社が請け負う工事で、大林組ナムニアップ工事事務所の木村隆之所長は「すべてを手掛けられるスケールの大きさが海外工事の魅力」と語る。13年に準備工に着手後、16年1月には河床掘削、同年2月に堤体打設を開始した。現在(5月23日時点)は、ダム堤体の63%に当たる145万m3のコンクリートを打設した。天端堤長が530mと横幅が長いため、生コンの吐出口を右岸と左岸の両方に設けており、堤体下流側にはコンクリートプラントから堤体まで長いベルトコンベヤーが縦横に伸びる。

主ダム堤体のコンクリート打設を続ける作業員ら

 堤体は、日本での採用例が少ないRCC工法で、貧配合超硬練りコンクリートをブルドーザーやフィニッシャーで敷き均し、振動ローラーで締め固める。施工の様子は、盛土の現場にも見える。端から順番に繰り返しコンクリートを打設でき、急速施工が可能な点が特徴だが、雨が降ると、固まる前の生コンに掛からないようブルーシートをかけ、作業が止まる。「長い時間雨が続くとコンクリートが固まり、再開時に表面を荒削りしなければならず、非常に時間を取られる」(木村所長)。それでも好条件時は1日9000m3以上、普段は7000m3が打設目標で、「(5月以降の)雨季は、雨で工程が左右されやすい。少しでもアドバンテージを取れる方法を模索して、とにかく営業運転に間に合わせる」(同)という。
 締め固めの転圧機には、日本で見慣れたGPS(全地球測位システム)が取り付けられている。ブロックごとの転圧回数がモニターに表示され、規定回数を締め固めるとモニターの色が変わる。日本の“生産性向上”の波がラオスにも押し寄せているが、人件費の安い東南アジア諸国では機械による生産性向上の効果は低い。それでも木村所長がGPS転圧機を採用する理由は、「ソンダ5へのアピール」と語る。
 原石山からクラッシャー、骨材プラント、コンクリートプラントまでを中国のシノハイドロ、コンクリートプラントでの練り混ぜから現場打設までをベトナムのソンダ5がそれぞれ協力会社となっている。特にソンダ5は、ダムの施工経験も豊富で、必要な機械も保有するベトナムの有力企業だ。海外勤務が間もなく20年を迎える木村所長は、「GPSを導入することで、大林組と組めば勉強になると思ってもらえる。今後、パートナーとなる現地企業がいなければ、海外で施工ができない。大林と組んで良かったと思ってもらえれば、日本での『林友会』のようなパートナー企業ができ、将来につながる」という思いがある。
 ラオスの現場では、“働き方改革”も課題だ。日本の労働基準法は適用されないが、「4週5休を何とか取れるようにしている」(木村所長)。その理由も、「今後、海外比率を高める中で、海外の工事が魅力的でなければ、若い人が来てくれなくなる」(同)と、同社の将来の海外事業を思ってのことだ。ビエンチャンまで車で4時間。周囲を山に囲まれた現場事務所に寝泊まりしていると「休暇でも電話が掛かってきたら、つい現場に出てしまうし、いつも仕事のことを考える」。このため、休暇の時には、街に出るよう職員に勧めている。
 日本から4000㎞。遠く離れ気候も文化も違い、娯楽も少ない山中の現場でも、日本の改革の波は押し寄せており、それが結果的に大林組の将来の海外事業にもつながっていく。

【事業概要】
▽事業主体=ナムニアップ1電力会社(SPC)
▽融資者(プロジェクト資金の7割)=アジア開発銀行(ADB)や国際協力銀行(JBIC)、日系銀行、タイ系銀行
▽出資者(同3割)=KPICネザーランド(関西電力子会社)、EGATインターナショナル(タイ企業)、ラオス国営投資会社
▽買電者=タイ電力公社、ラオス電力公社
▽施工者・土木建築工事=大林組(ダム本体工事、発電所建屋建築工事、アクセス道路長さ58.2㎞・造成工事)
▽同・電気機械工事=日立三菱水力(水車発電機、開閉設備一式、主要変圧器)
▽同・金物工事=IHIインフラシステム(鉄管工事、水門工事)
▽主ダム規模=堤高167.0m、堤体積約230万m3、発電量約27万kW
▽逆調整ダム規模=堤高20.6m、堤体積約6万m3、発電量2万kW
▽工期=2013年10月1日-19年1月31日

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