能登半島地震発災から3ヵ月-地域建設業の奮闘-(5) | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

能登半島地震リポート

能登半島地震発災から3ヵ月-地域建設業の奮闘-(5)

【「普段使いのLINEがベター」/情報の内部共有と対外発信】
 今回の「令和6年能登地震」発災後の初動対応を振り返ると、“情報の扱い方”も関係者内部で折々のポイントとなったことが見えてくる。
 石川県建設業協会は、主に県南部の各地区協会が奥能登地区で道路啓開を行う際、グループLINEで情報を共有した。 砕石の集積場の位置や日々変更する通行可能ルートの情報、 2泊3日の交代制で担当している各班の啓開場所などを共有でき、GPS(全地球測位システム)データを送っておけば次の班にとってナビ代わりになり、スムーズに引き継げたという。県職員も一時的にグループに入っているため、 電話やメールでの日常的なやり取りは不要だ。
 個人のアカウントで参加するLINEの活用には問題があるとの指摘もあるが、吉光組(石川県小松市)の吉光成寛副社長は「地震が発生してから特殊なアプリを入れて使っていくといった作業は時間がない中、やっていられない。LINEであれば年配の作業員でも普段使っている」とメリットを強調する。
 実はグループLINEの活用は吉光氏も加盟している小松能美建設業協会での採用実績を踏まえたものだ。河川災害の多い区域にある同協会では、会員企業共同の復旧作業態勢の原則として▽各社作業員も含めたLINEグループの構築▽被災現地では自社の所有建機ではなくリース機を使い回し、さしあたり特定の1社がリース料を立て替え、あとで精算▽クラウドサーバーで各社の日報や交代制の順番などを格納し、発注者とも共有–の三つを決めて災害対応してきたが、今回これを参考にした。ただ、「LINEはあくまで情報を共有するツール。指示や命令には向かないことは意識しておくべきだ」とも指摘する。
 SNS(交流サイト)の活用は関係者間の情報共有にとどまらない。県建設業協会建設青年委員会は2月中旬、対外的に情報を発信していくことを目的とした『令和6年能登地震応急工事に関するSNS利用ガイドライン』をまとめた。
 冒頭には策定した目的として「協会活動を正しく発信し、建設業界の担い手確保へつなげる」と記す。 今回の地震では、被災地の地理的な事情やアプローチルートの寸断といった理由で陸路でのメディア取材が困難となっていたため、最前線で道路啓開に当たる建協会員を頼りに映像などの入手を探るテレビ局などが相次いだ。 一方で、現地で作業する協会員企業の中には眼前に広がる被災地のリアルな惨状をSNSにアップする社も現れた。 ガイドラインはそんな動きを踏まえ、作成した。
 青年委の構成メンバー各社の社員に適用され、禁止行為などを定めているほか、ハッシュタグには協会名、各会社名のほか、「がんばろう能登」「共に働く仲間を募集中」「建設業を盛り上げよう」などと記載することを明記。使用する写真・動画は自社で撮影したものに限定し、他社のものを利用する際には社名をハッシュタグに追加記載することを定めている。
 今回の地震における道路啓開の作業映像はテレビにもたびたび取り上げられた。 発災後1週間足らずで啓開作業が概成した13年前の東日本大震災と異なり、 啓開作業が長引いた奥能登地域では、結果として最前線の苛烈な被災状況を伝える多くの映像とともに、 道路啓開の実態とそれを担う建設業の奮闘をも知らしめることとなった。
 長く「受け身」の業態であった地域建設業の主体的な情報発信への転換。今回の地震発生後、群馬県建設業協会は地元テレビ局と協定を結び、災害時に現場最前線で取得した被災映像などを共有し、テレビで発信していくこととした。SNSを含めた社会への積極的な情報発信とアプローチは、最近多発する自然災害への対応だけが契機ではない。確実に減少し続けている担い手の確保に向け、建設という営為の「魅力」「矜持(きょうじ)」は当事者が主体的に発信していかなければ「社会」「若者」に理解してもらえないとの切迫する危機感が臨界点を迎えつつある。
【2024年4月8日付紙面掲載】

山間地で道路啓開する作業班の存在を確認できるのもSNSだ