【海洋土木】ICT活用浚渫は効率化から省力化へ 東亜建設工業のナローマルチビーム計測システム『ベルーガ』 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【海洋土木】ICT活用浚渫は効率化から省力化へ 東亜建設工業のナローマルチビーム計測システム『ベルーガ』

ポンプ浚渫船「第三亜細亜丸」

 1995年に自社開発したナローマルチビーム計測システム『ベルーガ』の採用実績が年50件にも達する東亜建設工業。「ベルーガとオペレーションシステムの組み合わせが、わが社のICT活用の基本的な流れ。その目的は効率化から省力化へ向かおうとしている」と、土木事業本部機電部の今村一紀部長は先を見据える。
 国土交通省が直轄の浚渫工事にICT活用の導入をスタートさせたのを受け、社内では技術研究開発センター、機電部、技術部の3部門が連携する体制を確立した。青野利夫執行役員技術研究開発センター長は「ICT活用の要素技術は山ほどある。既にCIM専門部会も発足させており、これら組織がパラレルになり、連携しながら最適な活用方法を確立していく」と手応えを口にする。
 ベルーガシステムはグループ会社も含めれば全7台を保有する。採用件数は10年前に年20件程度にとどまっていたが、近年は50件を超えるまでに拡大した。技術開発もオペレーターを支援するガイダンスの流れが強まり、最近では画面を見ながら浚渫船のラダー先端に取り付けたカッターを設計断面に沿って動かせる施工支援システムを開発し、実用化への準備を整えた。
 施工支援には、作業時の判断がしやすいように、オペレーター目線からアイデアを具現化してきた。スーパーグラブバケット浚渫では地盤と浚渫設計の3次元データを取り込むが、オペレーターにはバケット姿勢や開度、平面位置をあえて2次元で表示する。浚渫履歴は判別機能によってオペレーターが操作することなく自動で残るような仕組みにした。

掘削断面連続測深システムの計測イメージ

 ポンプ浚渫の掘削断面連続計測システムでは、船首部分にナローマルチビームソナーを取り付け、ポンプ船のスイングを利用して深浅測量を行えるように仕上げた。浚渫直後の水深をリアルタイムに測量しながら3次元で施工管理ができる。当初は余掘り量の削減に利用していたが、近年は掘り残し防止を目的に使うようになった。このようにベルーガとオペレーションとの組み合わせが同社のICT活用の主流になっている。
 拡張現実(AR)を使った3次元ソナーの水中可視化技術も確立済みだ。3次元設計図面と重ね合わせ、現況を可視化表示するもので、水中の作業状況をリアルタイムに把握し、設計図面との比較ができるため、施工精度の大幅な向上に結び付く。潜水士の位置や作用状況を見える化でき、接触事故などの潜水災害の防止にも寄与する。現在は2台を保有するが、3次元ソナーの活用の幅が広がると判断し、1台の追加検討も始めた。

ARを使った水中可視化技術

 「次のステージは自動化だが、海底地盤の状況を明確に把握することは難しい。オペレーターの経験則の部分をいかにICTで補えるかがポイントになる」と今村部長は焦点を絞り込む。海底地盤を強固に改良する深層混合処理船(CDM船)では自動化の流れを実現しやすいが、それでも初動段階ではオペレーターが操縦かんを握る必要がある。経験則を補完するAI(人工知能)の確立がかぎを握ることは言うまでもない。
 その中でも波浪予測については、1年ほど前から本腰を入れて研究をスタートさせた。波浪が予測できれば資材調達の段取りも含め、より効率的な現場運営が可能になる。過去の気象データを基にしたアルゴリズムの予測システムを研究中。「こうした経験則の部分を担う技術が実現すれば、完全自動化の道は開けてくる」(今村部長)。
 担い手の確保も喫緊課題の1つだ。青野センター長は「船員や潜水士がいなければ、われわれは仕事をこなしていけない。担い手不足は海上土木も同じ。ICTによる省力化がどこまで実現できるかが問われる」と力を込める。作業船のメンテナンスや維持管理には多くの人手が取られてしまう。こうした部分の省力化についても、社内でアイデア出しを始めた。

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